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勃興するメコン5 〜期待と注目のCLMVT〜

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寄稿者プロフィール
  • プロフィール写真
  • みずほ銀行 プノンペン出張所 所長
    八木 孝夫

    東京生まれ。1996年から2017年まで、みずほ銀行で決済・外為・ECA・トレードファイナンスとプロダクツ営業。特に06年以降はエマージング国を担当し、17年4月にプノンペン赴任。日本人商工会(JBAC)や国際ビジネス商工会(IBC)の役員も兼務。

カンボジアの経済動向

安定した経済成長
存在感増す中国の投資

近年は毎年7%程のGDP成長を遂げてきました。一人当たりのGDPは1600米ドルほどですが、プノンペンでは3000米ドルを超え、車社会になっています。

GDPに占める割合は不動産建設が一番大きく昨年は約35%でした。次に縫製業、世界遺産アンコール・ワットという世界有数の観光資源が支える観光業となっています。1000社超の縫製業の内、ほとんどが中国系です。不動産建設でも中国からの投資が多くなっています。

一帯一路構想を進める中国にとってカンボジアはシーレーン(海上交通路)を確保する上で重要な位置にあります。プノンペンからカンボジアの海の玄関口であるシアヌークビルまでを結ぶ2022年完成予定の高速道路建設や周辺開発も中国からの投資によって進められています。

日系企業は特に11年以降投資が増え、自動車部品、電子部品関連の企業がタイ+1、チャイナ+1のような形で進出しています。

カンボジアの特色

外資による投資制限の緩さ
紙幣に国旗、日本に高い期待

タイとベトナムに挟まれ、南部経済回廊及び東南アジアにおいて中心に位置する地理的優位性があります。人口はあまり多くありませんが、ポル・ポト時代に起きた虐殺の影響もあり、平均年齢が約25歳と非常に若い年齢構成になっています。

人件費は近年上昇してきましたが、まだタイの半分、中国の3分の1程度です。プノンペンの日本食レストランでは中間所得層のカンボジア人客が増え、昨年ジェトロがイオンと共同で開催した物産展では高価な果物など食品が飛ぶように売れていきました。住宅や車のローンも増えており、消費市場が拡大しています。

自国産業が育っていない分、外資が担う力が強いです。通常の取引における通貨は現地通貨のリエルではなく米ドルです。外国人投資に制限を加えている分野は土地の売買以外ほとんどなく、米ドルのため為替リスクもなく投資ができ、対外送金についても特段の規制はありません。先進国向けの輸出には相手国の税優遇制度を活用できます。

政府が中国寄りとも指摘されますが、特に中国のための政策を打っているわけではなく、中国の方から寄って来ている印象です。昨年、フン・セン首相を日本に招き、ジェトロらと共同で投資セミナーを開催しました。

その席でも首相は日本企業の投資を強く求めていました。カンボジアの500リエル札には、日本の支援で建設された「つばさ橋」と「きぼう橋」、さらに日の丸が描かれているほど親日国であり、ハード面だけでなく人材育成にも力を入れている日本企業への期待は首相など含めて極めて高いと感じています。

プノンペンの街並み

プノンペンの街並み

カンボジアの企業動向

日系製造業が国内で工場拡大
食品加工などにも日本が投資

ミネベアミツミが11年からプノンペン近郊で電子機器などに使われる小型モーターを生産しています。当初は小規模でスタートし、現在では最大規模の工場となり、さらに中国からゲーム機のコントローラー生産も一部移管して行われています。13年に進出したデンソーは現在、新工場を建設中など、既に進出している企業が生産能力を拡大させています。手先が器用で黙々と働くので、一緒に仕事がしやすいという声をよく聞きます。

タイ国境付近のポイペトには日系の工業団地が複数あり、日系企業が多数進出しています。タイバーツが流通し、タイ語を話せるカンボジア人もおり、ビッグCが出店して生活環境も改善しています。賃金の上がったタイから生産工程の一部を移すような投資は今後も可能性があると見ています。

製造業以外では、イオンがプノンペン近郊に3店目のイオンモール出店を決め、23年開業予定です。スーパーマーケット・コンビニ業態のマックスバリュも展開しています。

日本の北原国際病院は日本人医師や看護師を派遣して16年に日揮と共同で総合病院を開設しました。カンボジアからは年間20万人が医療目的でタイやベトナムなど海外を訪れているといわれており、国内のヘルスケア市場拡大も注目されています。

日本のソラミツはカンボジア国立銀行と提携して、ブロックチェーンを活用したデジタル決済システムを開発しています。規制が少ない分、様々な技術の試験導入なども行いやすいです。

また、カンボジアは米の生産量が700万tを超え、日本とほぼ変わりません。世界的な品評会で最優秀賞を獲得するなど品質も優れています。亀田製菓は昨年から米菓をカンボジアで生産して海外に輸出しており、食品加工分野も将来性があります。Yamato Greenでは農産物の生産から加工、販売、配送までを一貫して行うフードバリューチェーンの構築に取り組んでいます。

カンボジアの課題

不十分なインフラ整備
割高な電気コスト

道路や鉄道などのインフラが整備不十分で、地理的優位性が十分に活かされていません。公的債務におけるGDP比は30%程で健全な状態であり、インフラへのさらなる投資が求められます。

通関などの透明性も課題です。ポル・ポト時代に学校教育を廃止したため識字率が低く、クメール語が書けない人もいます。日系企業ではそういった基礎教育も従業員に行っています。

電気代は周辺国に比べると高めです。ただ、各団体からの要請があって、政府は今後電気代を下げていく方針です。電源は水力と火力が占める割合が大きく、特に水力は干ばつによって発電能力が低下することがあり、安定的で低コストな電力供給が課題です。タイ湾のタイとの国境未確定区域に海上油田が見つかっており、政府間交渉が進めば今後の開発が期待されます。

また、産業の集積が進んでいないため、原料の調達を輸入に頼らざるを得ません。

カンボジアの新型コロナの影響

中国からの投資一時減少
縫製業は需要減で苦境

感染者数は273人(WHO、8月27日時点)で、GDPに占める割合が大きい不動産建設、縫製業、観光業が軒並みダメージを負っています。新型コロナウイルスの影響や中国側の規制強化で中国からの不動産投資が減り、縫製業では主要輸出先のアメリカやヨーロッパの需要減で10%超の工場が閉鎖などに追い込まれています。

操業している工場も受注が大きく減っています。外国人旅行者がいなくなり、観光業も大打撃を被っています。日系の製造業に関しては、担っているのが生産工程の一部ということもあり、影響は物流などに留まっています。

2月、感染者が乗船している疑いのあったクルーズ船がシアヌークビルに寄港して国際的な注目を集めました。乗客にはアメリカ人が多かったのですが、興味深いことにその後アメリカ向けの靴やマスクなどの注文が増えたのも事実です。同2月にフン・セン首相は中国を訪れ、習近平首相と会談。すると3月には中国から縫製の材料がいち早く入ってきました。

中国の支援が目立ちますが、国民感情としては日本への信頼は高く、日本企業が進出しやすい国と言えます。

>次ページ:ラオスの経済動向

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