不動産のプロ・GDM記事

第3回 現場で見えた中国、台湾企業の特色

事業用不動産から見るタイ事業環境の変化

弊社は2010年の創業以来、工場や倉庫、ホテル、オフィス、商業施設などの事業用不動産の売買を手掛けてきました。これまでに96万㎡を超える売買仲介を行ってきましたが、今、大きな流れの変化を感じています。端的に言えば中国系、台湾系企業のタイ進出意欲の高まりです。このコラムでは、不動産取引の現場から見えてきた今後起こり得るタイの事業環境の変化について、複数回に亘って考察してみたいと思います。


今回は、実際に弊社が目にした事例を通して中国、台湾企業の特徴をご紹介します。

ある台湾企業はタイ国内でプラスチック部品の製造を行っています。敷地面積は10万㎡で工場・倉庫が5万㎡。従業員数は400名ほどです。

通常、製造業関連の企業ならインフラが整った工業団地に進出するケースが多いですが、その台湾企業は工業団地外の格安の土地を取得して工場を建設。電気、水道、排水のインフラは自前で整備し、工場の屋根には太陽光発電用のソーラーパネルをずらりと取り付けていました。

そのソーラーパネルもコスト削減のため、台湾のメーカーに直接連絡して自社で輸入、設置まで行いました。オーナー曰く、「通常の2倍の早さで投資が回収できる」とのことでした。

オーナーは工場の向かいに自宅を構え、従業員は敷地内の宿舎で生活。地方出身の従業員にとっては、安定した食事と住宅が望ましいこともあり、離職率を低く抑えることができます。そして住居や食事を提供することで、人件費自体は最低賃金レベルで雇用しているのではないかと思われます。このようにコスト競争力を磨いた結果、日系大手からの受注が多数という状況になっています。

台湾企業のコスト例

別の中国企業のオーナーはわずか2回の来タイで4万8000㎡の土地の購入を決断し、決済まで完了しました。その2回目の来タイの際には工場の建築計画まで固めて帰国しています。この間、約2ヵ月弱です。一般的に同規模の土地を購入しようとすると、意思決定までどれだけ早くても3ヵ月ないしは1年掛かるケースもあります。

もちろん様々なリスクはあるかと思いますが、この決断の速さには、日系企業とはリスクに対する解釈の仕方が異なると感じました。

別の台湾企業は5万8000㎡の大型工場を建てた際、製造ラインの構築を急いでいたため造成から基礎打ち、建設完了までなんと7ヵ月間で済ませました。通常、15~20ヵ月程度掛かるので、その半分ということになります。必要な設備に集中した建築計画によって圧倒的な早さを実現しました。

限られた例ではありますが、彼らのコスト意識やスピード感覚、リスクに対する考え方など、今後タイに進出してくる中国、台湾企業の事業に対する姿勢が垣間見えると思います。彼らの参入によって、タイ市場の競争の激しさはますます増していくと言えそうです。

コロナ前から日系企業の中でも好業績の企業とそうでない企業の二極化が広がっていました。タイから完全撤退したケースもあれば、将来の拡張のために保有していた土地や工場を売却して資産を圧縮し、資金を確保するケースもあります。

今後はタイの日系企業の保有資産が中国、台湾資本に売却されるケースもますます増えていくのではないかと思われます。まさに洗練と淘汰の時期に我々は立っています。

(続く)

寄稿者プロフィール
  • 高尾 博紀 プロフィール写真
  • GDM (Thailand) Co., Ltd.
    高尾 博紀

    早稲田大学商学部卒業。2008年来タイ。ホテル・オフィス用地や工場倉庫用地及びホテルやオフィス、商業施設などの事業用不動産売買に強みを持つ。タイ国内において960,000㎡を超える不動産取引実績を有し、企業の不動産取得支援を行っている。

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