中野陽介コラム

23【創作経済】「虹を作るジュエリー屋②」(日本/東京)

(7月号の続き)

 これだけの商品と店舗空間を作り、見ず知らずのお客さんと豊かに交易している。自らの「生」をつくりあげている人間の創造性を目の当たりにして、僕は彼を「天才」だと思ったからだ。

 坂口恭平さんの著作『独立国家のつくりかた』で紹介されていた「学校社会」と「放課後社会」の話を思い出した。同じものを提供され、それをクリアすれば評価されるのがゲーム型社会であり、それは個性や自由ではなく、単一化とルールを重んじるザ・システム型の無意識世界である「学校社会」の視点から見た場合、確かに彼はシステムから完全に逸脱している。だから「バカ」と言われても仕方がないのかもしれない。

 でも反対に、個人の自由と創造を解放する「放課後社会」の視点から見ると、自身でつくり上げた創造性でお客さんを次々と笑顔にして経済を生み出している彼は「天才」と言える。

 物事の捉え方ひとつで、世界はあっという間に変わる。

 もちろん彼の佇まいや人柄も関係しているだろう。売上などは秘密だったが、見知らぬ僕にも笑顔で優しく受け答えしてくれた彼の人間性が、商品と同じようにキラキラ輝いて見えた。


中野陽介

1987年福岡生まれ。19歳で渡米、Los Angeles City College卒業。23歳で岡本太郎著「今日の芸術」で芸術使命に目覚める。24歳で渡タイ、バンコクでサラリーマンと芸術家の2足のわらじ生活を3年間送る。28歳で1年間に22ヵ国を巡る世界一周旅を敢行。その後、路上ワークの研究を始め、現在、平日はサラリーマン、休日は路上ワーカーという生活を送っている。「路上ワークの幸福論」発売中。
yosukenakano.com

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