アルゼンチンからブラジルへ国境を越える入国審査のため、長蛇の列に並んでいた時のこと。
暇つぶしも何もなく、炎天下の中でただただ辛抱していると、どこからともなくリヤカーを引いた女性がやってきた。
おもむろに慣れた手つきでクーラーボックスを開けて、ガサゴソと作業をしている。
移動ジュース屋だ。
列に並ぶ人々も、僕と同じような反応をして彼女を見つめている。
一人また一人と、吸い寄せられるように女性からドリンクを買っていった。
暇、疲れた、口が寂しい、喉が渇いた……。
そんな需要に応える物を適切な場所で提供するだけで、経済活動がアッという間に生まれるのを目の当たりにした。
商売の原点を見る思いがした。
中野陽介
1987年福岡生まれ。19歳で渡米、Los Angeles City College卒業。23歳で岡本太郎著「今日の芸術」で芸術使命に目覚める。24歳で渡タイ、バンコクでサラリーマンと芸術家の2足のわらじ生活を3年間送る。28歳で1年間に22ヵ国を巡る世界一周旅を敢行。その後、路上ワークの研究を始め、現在、平日はサラリーマン、休日は路上ワーカーという生活を送っている。「路上ワークの幸福論」発売中。
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