もう悩まない!人材採用&育成のコツを解説 Vol. 18 タイ人事相談室

優秀な人材が組織に定着し、活躍してもらうためのポイントについて、
今回からは実務目線で掘り下げていきます。人材管理とは切っても切り離せない
労働法務事情を、KASAME & ASSOCIATESの藤井嘉子弁護士に伺いました。

藤井嘉子
日本国弁護士
Kasame & Associates Co., Ltd.

2010年新司法試験合格、2011年司法修習修了。2011年から約4年間、日本の法律事務所にて一般民事、刑事、家事、労務等、幅広い業務を扱う。2017年12月より、カセーム&アソシエイツ法律事務所にて、日系企業の法務コンサルティング(一般企業法務、労務、訴訟・紛争対応、一般民事・家事案件等)を担当(2018年3月より岡山弁護士会所属)。
Mail: fujii@kasamelaw.com

「人材と労務」を考える(後編)

下川  雇用開始から119日間は「試用期間」なので、この間ならいつでも自由に解雇できるという、間違った解釈をされている企業の声を耳にしたことがあります。タイの法律上、「試用期間」の上限等は明確ではないのですよね。

藤井 はい、その通りです。実際には多くの企業が「雇用から119日まで」を試用期間と定めていますが、これは120日以上勤続している従業員を解雇する場合、原則として解雇補償金を支払わなければならないためです。判例実務上、試用期間中は試用期間経過後と異なり、能力不足や職務を理由とする解雇が正当と判断されやすいとされています。しかし、解雇するだけの理由が必要な点に変わりありませんので〝自由に〟解雇できるということではありません。また試用期間中であろうとなかろうと、解雇には適切な手続が要求されますので、ご注意ください。

下川  優秀な人材がノウハウや顧客をもって競合他社へ転職してしまうのを抑止するため、雇用契約書にその内容を盛り込みたい、という企業もありますが、そのようなことは可能なのでしょうか。

藤井  例えば、雇用契約書の中に「一定の期間内に、一定のエリア内で特定の競業する事業体に転職しない」という主旨の条項を盛り込むといった手段はあり得ます。ただ、裁判で争いになった時、最終的にこのような条項が有効と判断されるかどうかは、条項の書きぶりや従業員の職務内容など、様々な事情で左右されます。さじ加減が難しい条項ですので、実際に記載する場合は専門家に相談してみてください。

下川  タイの労働者は口頭で訴訟を提起できて、しかも訴訟費用は基本的に無料だそうですね。労働者が比較的容易に企業を訴えることができてしまう国だという認識を持ち、懸念が生じた際には早めに専門家へ相談しておきたいところです。

藤井  そうですね。トラブルが起きてからご相談をいただくケースが多いのが実情です。こういった法務の対策は後回しになりがちですが、トラブルが起きてからですと解決に時間やコストがかかる場合も多々有りますので、事前に専門家にご相談されることをお勧めします。

下川  日本企業の良い面が、タイ人にそのまま伝わるとは限りません。前述の通り、試用期間のない国ですから、「雇ってみてだめなら辞めさせれば良い」というわけにもいきません。不要なトラブルを回避するためにも、採用の時点から人材に求めることを明確にしておくこと。さらにそれを明文化するなど適切な方法をとることが、企業と人材がお互いに安心して働くうえで重要なポイントと言えそうです。


下川ゆう yu shimokawa
en world Recruitment (Thailand) Co., Ltd.
日系チーム チーム・マネージャー
立教大学卒業。大手人材紹介会社の東京本社で経験後、2009年に来タイ。以来、在タイ日系企業への人材紹介に従事。顧客企業の組織発展のための採用支援を得意とし尽力している。

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