時事通信 特派員リポート

時事通信 特派員リポート Vol. 12 【タイ】コメ担保融資制度が「復活」=軍政、生産農家の不満解消に(バンコク支局 近藤泉)

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タイ政府は11月1日の閣議で、米価下落で困窮する生産農家を支援するため、総額1270億バーツ(3784億6000万円)の緊急対策をまとめた。支援策の柱は、農家が保管するコメを担保にした無利子貸し付けで、政府系の農業協同組合銀行を通じ、237億3400万バーツを融資する。
インラック前政権下で肥大化し、国庫に巨額の損失をもたらしたコメ担保融資制度だが、前政権のバラマキ政策を厳しく批判してきた軍政の下で「復活」する皮肉な巡り合わせになった。

実際は「買い付け」

農協銀によると、無利子融資の対象は香り米「ホーム・マリ」を生産する北部、東北部23県のコメ農家約200万世帯。自前の倉庫への保管を条件に、市場価格の90%に相当する1トン当たり9500バーツを貸し付ける。
融資のほかにも、収穫・品質改善加算金として2000バーツ、倉庫保管料として1500バーツを支給。さらに、仕入れ後3〜6カ月は在庫として保有してもらうため、精米業者らに総額800億バーツの低利融資を実行する。
無利子融資は本来、生産農家が5カ月以内に担保のコメを請け戻し、市場に売却して資金を返済することを想定している。しかし、この期間中に市場価格が融資金額の9500バーツを上回っている保証はなく、実際はインラック政権下の制度同様、「融資」という名目の「買い付け」となる可能性が高い。
インラック政権の担保融資制度は、全てのコメ農家に市場価格を50%上回る金額を貸し付けた結果、巨額の「貸し倒れ」が生じた。軍政の調査委員会によると、市中売却できずに政府が抱える在庫米の評価損や保管料を合わせると、国庫の損失額は1780億バーツ。軍政はインラック前首相に対し、この2割に当たる357億バーツ、1000億円余りを賠償するよう求めている。

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5日、バンコク近郊の商業施設の駐車場で、買い付けたコメを販売するインラック前首相(EPA=時事)

膨張する支援策

軍政が農家支援に乗り出すのは、供給過剰でもみ米の買い取り価格が通常より30-50%前後も下落し、地代や肥料代などの借金を返済できない農家から自殺者が出る事態になっているためだ。
インラック前首相は5日、「生産農家の苦しみを少しでも和らげたい」として、東北部の農家からコメ10トンを直接購入。バンコク近郊に持ち込んで買い付け値と同じキロ当たり20バーツで販売し、わずか1時間で完売した。地元紙によると、軍政首脳は前首相の行動に対し「政治的パフォーマンスだ」などと不快感をあらわにしたという。
北部、東北部を中心とする農村地帯はタクシン派の前政権の基盤であり、この地域の不満はストレートに反タクシン勢力に向かいやすい。このため、軍政は米価低迷が深刻化する前にあらゆる手段を駆使して政治問題化の芽を摘み取る構えを見せている。
7日には早速国家コメ政策委員会を開き、担保融資制度の対象品種拡大などを盛り込んだ追加支援策180億バーツの投入を決めた。今後、軍政による農家支援はさらに膨張する可能性がある。

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