時事通信 特派員リポート

時事通信 特派員リポート Vol.10【カンボジア】「政治危機」続くカンボジア、野党ナンバー2に有罪判決=フン・セン首相、態度軟化も(バンコク支局 花田義久)

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jijiカンボジアでフン・セン首相率いる政府・与党人民党と最大野党救国党の対立による「政治危機」が続いている。事態打開への有効な手だては見当たらないままで、危機はさらに長期化する可能性がある。

党本部に「立てこもり」

今回の政治危機は、今春浮上した救国党ナンバー2のケム・ソカ党首代行の「不倫疑惑」が発端となった。同氏は、疑惑に絡む売春仲介などの容疑をめぐる「証人」として検察側から召喚されたが、出頭を拒否。当局側が逮捕に動いた5月26日以来、首都プノンペンの救国党本部に立てこもる状態が続いている。
プノンペンの裁判所は9月9日、ケム・ソカ氏不在のまま公判を開き、召喚に応じなかった罪で同氏に禁錮5月の実刑判決を下した。
AFP通信によると、裁判についてケム・ソカ氏は同日、党本部前に集まった支持者を前に演説し、フン・セン政権が裁判所を使って「私の政治生命を絶つ」ことを狙っていると非難。救国党は12日、全国で大規模抗議デモを実施する方針を明らかにした。
これに対し、政権側は大規模デモ計画に強く反発。地元メディアの報道では、フン・セン首相は「救国党は政府を脅し、国の安定を脅かしている」「(デモは)絶対に認められない」と断固阻止する決意を示し、12日深夜には、首相の護衛部隊がトラックになどに乗って救国党本部周辺に出動した。
救国党側は同党への「威嚇」と抗議する声明を出したが、地元メディアによれば、護衛部隊司令官は部隊の動きを「演習」と称した上で、救国党が「不安定」と「騒乱」を引き起こそうとしていると批判。今後も同様の「演習」を行うと警告した。

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フン・セン首相(EPA=時事)

「迫害キャンペーン」

不穏な情勢が続く中、日米や欧州連合(EU)諸国など、36カ国は14日、ジュネーブの国連人権理事会で、「カンボジアで政治的緊張がエスカレートしていることを深く懸念している」と表明する共同声明を発表。声明は、野党や人権NGOによる合法的な活動が脅かされているとし、「政府批判者に対する法的措置が不釣り合いに追求されている状況が特に懸念される」と政権に苦言を呈した。
しかし、フン・セン首相は19日に大学の卒業式で行った演説で、「カンボジアに政治危機は存在しない」と反論。救国党の大規模デモ計画に言及し、「デモで(私を)脅すな」とし、「これは単なる警告ではない。警告よりも重大なものだ。安全と社会秩序を破壊する者は消せという命令だからだ」と述べ、武力鎮圧も辞さない構えを見せた。「外国人はカンボジアの内政に干渉してはならない」とも語った。
ケム・ソカ氏の訴追をめぐっては、2018年に予定される総選挙を前にした野党陣営に対する「迫害キャンペーンの一環」(国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ=HRW)との見方が強い。HRWによると、現在、野党議員2人に加え、少なくとも17人の地方政党関係者や活動家が獄中にある。7月には、政権批判の評論活動で知られた著名活動家のケム・レイ氏が白昼射殺される事件も起きている。
フン・セン首相が強硬姿勢をエスカレートさせる中、救国党幹部は20日、4カ月にわたって続けてきた下院の審議ボイコットを中止する考えを表明。首相も22日の演説で、月末からの連休を前に「停戦」を宣言し、一転して強硬な態度を軟化させた。
ただ、首相は一方で「誰が先に攻撃を始めるか見守る」とも発言しており、政治危機の解決に向けて救国党側が求める政権側との対話につながるかは不透明だ。

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