時事通信 特派員リポート

【インド】分断招くモディ政治= 対イスラム強硬策で社会不安(ニューデリー支局竹田亮)

時事通信 特派員リポート vol.52 【インド】分断招くモディ政治=対イスラム強硬策で社会不安(ニューデリー支局竹田亮)

 ヒンズー至上主義を掲げ、少数派イスラム教徒に強硬な姿勢で臨むインドのモディ政権の姿勢が社会の分断を招き、治安上の懸念が増している。昨年12月に政権が策定した改正国籍法をめぐる抗議行動は3ヵ月以上も続いてきたが、2月末に過激化。首都ニューデリーで50人以上が死亡する事態となった。

ヒンズー教徒も「違憲」指摘

 モディ政権は昨年12月、周辺国からの不法移民に対し、一定の条件下でインド国籍を与えることを決めた。ただ、イスラム教徒は対象から除かれた。モディ首相は「周辺国で迫害を受けた少数派のための施策」と主張し、決定を正当化。改正法は成立したものの、全国規模の抗議行動を招いた。

 問題視されたのは、インドを「宗教に基づかない世俗国家」と定義する憲法との齟齬(そご)。イスラム教徒であればインド人になれないという点が違憲と指摘された。国家の多様性を誇りにしてきたインド国民の反発は大きかった。

 抗議デモには多数派ヒンズー教徒も多く参加した。ニューデリーのデモに加わったヒンズー教徒の学校職員サフー・シンさんは「私たちは(歴史的に)仏教徒のチベット難民も、ヒンズー教徒のスリランカ難民も受け入れてきた。なぜイスラム教徒だけだめなのか。宗教の平等を保障する憲法に反する」と憤った。

与党政治家が衝突あおる

 デモはその後も続いたものの、今年2月23日になってニューデリーで激しい衝突が起きた。地元報道によれば、モディ首相の与党インド人民党(BJP)の前地方議員が率いるヒンズー過激派グループが、イスラム教徒らを挑発する過激な言葉を投げ掛け、衝突をあおったとされる。

 結果として、暴徒化したデモ隊が放火や銃撃などを行い、特にイスラム教徒住民の多い首都北東部の治安が極度に悪化した。

 BJPは昨年4~5月の総選挙で単独過半数を獲得し圧勝。その後、モディ政権の対イスラム強硬姿勢は鮮明になった。

 同8月に国内で唯一、イスラム教徒が多数派だった北部ジャム・カシミール州を解体し、住民の自治権を剥奪。同月には、北東部アッサム州で、主にイスラム教徒の住民約190万人を不法移民と見なした。相次ぐ「挑発」により、国内のイスラム教徒の不満は頂点に達していた。

 2月23日に衝突が激化した翌日、トランプ米大統領がニューデリーを訪問した。インドのイスラム教徒の「凶暴さ」がトランプ氏の前で示された形になった。また、「凶暴さ」を強調することで、改正国籍法に反対していたヒンズー教徒をイスラム教徒から引き離すことを企図していた可能性もある。

 インドは2014年のモディ首相就任以降、毎年7%程度の経済成長を続けてきた。しかし、米中貿易摩擦などのあおりを受け、18年夏ごろから成長が停滞している。BJPの総選挙での大勝に加え、経済停滞から国民の目をそらすため、少数派イスラム教徒に強硬姿勢を示して対立をあおる政治志向はしばらく続きそうだ。

※この記事は時事通信社の提供によるものです(2020年3月18日)。

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