時事通信 特派員リポート

【オーストラリア】豪州、「コロナ後」見据え中国けん制=国防戦略やインドと関係強化(シドニー支局 田中 健吾)

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 オーストラリアのモリソン政権は「ポストコロナ」の国際情勢をにらみ、新たな路線を相次ぎ打ち出している。安全保障分野では「インド太平洋」に国防の軸足を置く新たな戦略文書を公表。経済分野でも、成長市場を取り込もうとインドとの関係強化に踏み切った。いずれも、新型コロナウイルスの調査を国際社会に訴えて、反発を受けた中国をけん制する狙いがある。

インド太平洋情勢に危機感

 「豪州が現在経験している世界規模の経済的、戦略的な不確実性は、世界と地域の秩序が1930年代と40年代に崩壊して以来だ」。モリソン首相は新たな国防戦略文書を公表した7月1日、現在の国際情勢を第2次大戦前後になぞらえて、危機感を強調した。

 モリソン氏は、インド太平洋が「高まる戦略的競争の中心地だ」と説明。中国とインドの国境地域で起きた衝突や、中国が覇権を広げようとしている南シナ海や東シナ海の情勢を踏まえ「誤算や紛争のリスクが高まっている」と訴えた。

国防投資を4割増強

 文書では今後10年間の国防投資を約2700億豪ドル(約20兆円)とし、2016年の国防白書に盛り込んだ1950億豪ドルから約4割増額した。「インド太平洋の攻撃抑止や対応のために長距離攻撃能力に投資する」ことを重視する。具体的には、射程距離を370キロ超と従来の約3倍にするため、長距離対艦ミサイル「AGM-158C」を8億豪ドルで米海軍から調達。超高速ミサイルの開発も計画している。

 サイバー防衛にも力を入れる。豪州は6月に「国家を基盤とする主体」から大規模なサイバー攻撃を受けていると発表した。主体は中国と見られている。500人の増員などを含め、10年間で13億5000万豪ドル(約1000億円)を投じる計画を国防文書とは別に公表した。

中国依存を引き下げ

 豪州は6月4日には、オンライン上でインドとの首脳会議を開催し、両国関係を「包括的戦略パートナーシップ」に格上げすると発表した。発表資料によれば、基地の相互利用や軍事技術の協力など防衛協力のほか、レアアースなど重要鉱物や農産物でも連携する方針を示した。

 インドとの関係強化の背景にも、対中関係の悪化が透けて見える。豪州は18年に、次世代通信規格「5G」市場への中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)の参入を禁止。これが伏線となり、新型コロナ調査を要求したことで、中国との関係悪化が鮮明となった。中国は「報復」として、豪産牛肉や大麦に対して事実上の輸入規制を導入した。

 クイーンズランド大学のスティーブン・ベル教授は、一連の中国の動きについて、非寛容的な同国の指導部が豪州を「より従順な姿勢」に転じるよう、攻撃的な姿勢を見せていると指摘。豪州側もインドとの連携を通じて、貿易全体の3割弱を占める「中国への高い依存度を軽減しようとしている」と分析した。

※この記事は時事通信社の提供によるものです(2020年7月9日)

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