知らなきゃ損する!タイビジネス法務

タイにおける株式の取扱い

はじめに

タイにおける実務的な相談を受けていて、しばしば見られるのが株式に関する誤解だ。会社運営の根幹をなす株式について誤解があると、時として大きなリスクに繋がりかねない。そこで今回は、タイにおける株式の取り扱いについて解説する。

日本の株式との違い

タイにおける株式の取扱いに関する特徴はいくつかあるが、日本と異なる点として、タイでは原則的に額面が記載された株券を発行し、株主に交付しなければならないことが挙げられる(民商法第1127条・第1128条)。株券は原則として記名式であるとされており、そこには株主の名称、会社名、株式番号、株式数等が記載される。また、タイの株式は額面株なので、会社設立時に設定した1株あたりの株価も付随して記載される。これらはかつて日本でも見られた制度であるが、現在は廃止されている。なお、この額面価額は、確かに株式の価格を示すものではあるが、必ずしも時価とは一致しない。つまり、会社は額面価額とは異なる価額で株式の取引をすることも可能である。

次に、発起人についても見てみよう。発起人とは、会社設立の際、資本金の出資、定款の作成等の会社設立手続きを行う人である。タイの民商法典上、会社設立時には3人以上の発起人が必要で、各発起人が1株以上の株式を引き受けるとされている(民商法第1100条)。ちなみに、この発起人は常に自然人であって、法人の発起人は認められていない。日本では、1人以上の発起人がいれば会社は設立でき、法人も発起人として認められているので、この点も誤解が生じやすい。

なお、発起人は会社設立時には必要だが、会社設立後に株主として維持する必要はない。会社が設立された後は、3人の株主が要るが、発起人とは違って、株主は法人でも構わないとされている。そのため、実務上、一旦自然人3人で会社を設立して、その後に株式を法人に譲渡する手続きが取られることが多い(日本のように1人株主は認められないことに注意)。

自由に株式を譲渡可能

タイの株式は原則として自由に譲渡可能だが、ここにも意外な落とし穴がある。日本では、非公開会社の株式譲渡には取締役会の承認が必要など、株式譲渡が定款上制限されている場合が圧倒的に多い。しかし、タイの一般的な定款にはそのような定めは存在せず、会社の承諾なく株式を第三者に譲渡することが可能になっている場合も多い。

最後に、株式の所在についても少し触れる。タイでも日本でも、株式の所在を示すのは「株主名簿」であって、これは会社内で保管されるものである(民商法第1139条)。他方、タイでは、BOJ5と呼ばれる株主のリストを商務省事業開発局(DBD)に報告する制度があるため、あたかもBOJ5が正式な株式名簿であるように思われている場合がある。日本にはない制度なので誤解が生じやすいが、BOJ5はそれ自体で株式の所在を証明するものではなく、この記載だけで株の所在を確認することにはリスクが伴う。是非注意していただきたい。


GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士  藤江 大輔
2009年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

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