知らなきゃ損する!タイビジネス法務

タイの商標制度(3) 

インテリジェンス・リレー連載  知らなきゃ損するタイビジネス法務 タイの商標制度(3) 

はじめに

 当職担当の回ではタイの知的財権法それぞれについて詳細に説明している。前回12月号ではタイの知的財産権法制の概説を行った。今回もタイの商標制度に関して、実務的な諸点からQ&A方式で紹介する。

Q タイで商標出願する場合の費用はどの程度か?

 1区分(注:区分=商品役務を区切る大きなグループのこと。クラスという言い方もする)の出願の場合、日本円で約13万~20万円程度が必要となる。これは代理人費用・公的費用含む。費用は指定する指定商品・役務の数、拒絶理由通知・補正指令の有無等によっても変動する。

 1区分の出願を前提として、具体的な費用の内訳としてはまず、出願時に1指定商品あたり千バーツ(6指定商品以上を記載する場合は一律9千バーツ)、登録時に1指定商品あたり6百バーツ(6指定商品以上を記載する場合は一律5千4百バーツ)の公的費用がかかる。

 公的費用に加えて、代理人に依頼した場合は代理人費用が必要となる。この点、日本の特許事務所に依頼すると、一般的には日本国内の代理人費用(弁理士費用)とタイの代理人費用が二重に発生し、費用が高額になることが多い。

Q タイでは、商標出願から登録までどの程度の期間を要するか?

 拒絶理由がなければ、約10ヵ月~1年程度で登録になる。

Q タイの商標を検索するためのデータベースのようなものはあるか?

 タイ特許庁(DIP)のデータベース(※1)で検索することが可能である。ただしタイ語での検索となる。

また、収録されている範囲は限定されるが、日本国特許庁の外国特許情報サービスFOPISER(※2)や、ASEAN TMview(※3)においても検索可能である。

ただし、商標調査には専門的な知見が不可欠であり、右記データベースを用いて安易に自己判断することは大変危険である(特に侵害の有無を判断する場合はリスクが高い)。本格的な調査は専門家に相談されることを強くお勧めする。

Q 1出願で多区分を指定した出願はできるか?

 2016年7月の法改正により可能となった。ただし、分割出願ができないため、一部の区分に拒絶理由がある場合に、その区分の削除か、出願全体について拒絶理由を争うことしかできず、現在でも区分ごとの出願を行うことが多い。

Q マドリッド・プロトコルによる国際出願(マドプロ出願)はできるか?

 17年11月7日から可能となった。

 マドプロ出願とは、ある国に対して行った商標出願を基礎とした国際出願を行うことにより、複数国へ出願するのと同等の効果を得られる制度である。多数の国に同じ商標を出願したい場合、費用の面や権利化後の管理の利便性において大きなメリットがある。

 タイのマドプロ加盟により、例えば、日本で行った基礎出願をベースに国際出願を行い、当該商標を米国、中国、韓国、欧州、そしてタイに一元的に展開する、といった手法も可能となった。

 ただし、基礎出願の指定商品の記載ぶりにより各国での権利化が難しい場合もあり(指定商品の記載として要求されるレベルが各国で異なる)、基礎出願時からマドプロ出願を見据えるなどの対応が必要となる。

Q タイ出願について注意すべき点はあるか?

 一例として、委任状を提出する際、日本国の公証人による公証が必要となる。また、識別力の無い商標(日本商標法3条に該当する商標)とされる判断が日本よりもかなり厳しく、日本であれば権利化できる商標もタイでは識別力の無い商標として権利化できないことがよくある。

 外国の出願には、日本の出願とは異なる知見を要するため、タイでの出願に際しては、タイ商標出願の専門家に相談することをお勧めする。

※1 https://www.ipthailand.go.th/en/home-eng.html
※2 https://www.foreignsearch.jpo.go.jp/
※3 http://www.asean-tmview.org/tmview/welcome

 
永田 貴久
TNY国際法律事務所
日本国弁護士・弁理士
永田 貴久
 

京都工芸繊維大学物質工学科卒業、2006年より弁理士として永田国際特許事務所を共同経営。その後、大阪、東京にて弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所を設立し代表社員に就任。16年にタイにてTNY Legal Co., Ltd.を共同代表として設立。TNYグループのマレーシア、イスラエル、メキシコ、エストニアの各オフィスの共同代表も務める。

URL : http://www.tny-legal.com/
Email : info@tny-legal.com


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