知らなきゃ損する!タイビジネス法務

タイの著作権法

インテリジェンス・リレー連載  知らなきゃ損するタイビジネス法務 タイの著作権法

はじめに

 当職担当の回ではタイの知的財産権関連法それぞれについて詳細に説明している。

前回4月号まではタイの知的財産権法制の概説を行った。今回からは、タイの著作権法について日本の著作権法との比較も踏まえて解説する。

著作物の概念の比較

著作物とは、日本においては「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(日本著作権法2条1項1号)と定義されている。タイにおいても「著作権のある著作物とは、その表現の態様又は形式を問わず、文芸、学術又は美術の分野に属する文芸、演劇、美術、音楽、視聴覚、映画、録音、音及び映像の放送の著作物その他の著作物をいう」として、同様の概念として捉えられている(タイ著作権法6条)。

代表例として、小説や絵画、音楽などの芸術作品をイメージしてもらえるとよい。この点、「単なる事実の伝達」「時事の報道」等は日本・タイ共に著作物に含まれない。タイでは、「著作権の保護は、着想又は手順、工程、体系、使用の手法、操作、概念、原則、発見、科学的・数学的理論には及ばない」との明文の規定もある(タイ著作権法6条)。

一方、「法律・法令」「行政の通達」 「裁判所の判決」については、日本もタイも著作物ではあっても著作権の目的とはならない。広く国民に周知すべきものだからである。

そして、特許発明と異なり、著作物であるためには、高度性(進歩性)は要求されない。上記の定義にあてはまる限り、高名な画家が描いた絵画にも、幼児が描いた落書きにも、等しく著作権は発生する。

また、登録によって発生する特許権や商標権と異なり、著作権は創作の瞬間から自然発生するため、登録などがなくとも著作権は生じている。これを無方式主義という。

日本の著作物はタイでも保護されるか

ある国の法律は、その国の領域内にしか適用されないのが原則となる。これを属地主義という。

従って、日本で創作された著作物が、日本国内において著作権法の保護を受けられるとしても、他国においては日本と同様の保護を受けらないということになる。

しかしながら、この原則通りに捉えると、例えば日本で作成された著作物はタイにおいて誰でも自由に複製(コピー)でき、販売が可能になる。このような結果は、著作者の保護を著しく欠く事態を生じさせ、ひいては各人の創作意欲を失わせることに繋がる。

そのような事態を避けるため、ベルヌ条約という条約が存在する。この条約は、いわば世界著作権を認めるもので、ベルヌ条約の加盟国は互いの国の著作物を保護し合うという点を取り決めている条約である。そして、日本もタイもこのベルヌ条約に加盟しているため、互いの国の著作物は互いの国の著作権法で保護を受けられることになる。

したがって、日本の著作物もタイ国内においてタイ著作権法による保護を受けることが可能となっている。あくまでも、タイ著作権法による保護であるため、保護期間や権利の内容などはタイ著作権法の規定によることになる。

寄稿者プロフィール
  • 永田 貴久 プロフィール写真
  • TNY国際法律事務所
    日本国弁護士・弁理士永田 貴久

    京都工芸繊維大学物質工学科卒業、2006年より弁理士として永田国際特許事務所を共同経営。その後、大阪、東京にて弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所を設立し代表社員に就任。16年にタイにてTNY Legal Co., Ltd.を共同代表として設立。TNYグループのマレーシア、イスラエル、メキシコ、エストニアの各オフィスの共同代表も務める。

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