みずほ銀行メコン5課コラム

コロナで変貌するメコン5のサプライチェーン

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

みずほ銀行バンコック支店メコン5課が発行する企業向け会報誌 『Mekong 5 Journal』よりメコン川周辺国の最新情報を一部抜粋紹介

コロナで変貌するメコン5のサプライチェーン

産業調査部アジア室 主任エコノミスト 松浦 大将

1・ 中国からの生産移管 コロナ禍で関心が上昇

これまで中国はアジアの製造業のハブとして重要な役割を担ってきた。しかし、新型コロナウイルスの影響で、中国からあらゆる製品の供給が滞り、アジアのサプライチェーンが一時機能不全に陥った。この事態を受け、リスク分散の観点から、日系企業を含めグローバルに事業を展開する企業が中国に集中した製造拠点を他国に移設する気運が高まっている(図表1)。

2020年2月にみずほ総合研究所がアジアに進出する日系企業に実施したアンケート調査によると、中国からの移転先として既に移転を実施もしくは検討している国は、ベトナムやタイの回答が上位を占め、生産移管の行き先としてASEAN、とりわけメコン5が選好されていることが分かった。背景には、中国と比較してメコン5の人件費が安いことに加えて、既に一定の日本企業が進出しているため、サプライチェーンを再編し易いことなどがある。

ノートPC、靴や繊維、旅行用鞄という世界の輸出市場に占める中国のシェアが60%~70%に達している製品が、今後、生産拠点を中国から他国・地域へ移管する可能性がある。

2・ 生産移管がもたらすメコン5への経済効果

中国から各国・地域へ生産移管すると、その国へ部材供給を行っている各国・地域にも恩恵は波及する。一方、中国の減産に伴う部材供給の減少といったマイナスの影響もあるだろう。

そこで、生産移管に伴う世界各国・地域のGDPへの影響を試算した(図表2)。

まず中国の生産減に伴うマイナスの影響は、中国向けにエレクトロニクスなどの部材を供給しているマレーシア、フィリピンが比較的大きい損失を被ることになりそうだ。

一方、生産移管に伴うプラス効果についてはカンボジア、ベトナム、タイなどメコン5がトップ3を独占している。カンボジアやベトナムでは靴や鞄などの軽工業の分野、タイではエアコンなどの一般機械の分野での移管が進むことが期待される。

3・ 政府のバックアップが生産移管を後押し

経済産業省は、補正予算で日本企業の国内回帰に2200億円、海外での生産分業に235億円の補助金を確保するなど、サプライチェーン再編の流れをバックアップする方針だ。このうち海外での生産分業への補助金について、第一回公募では30件が補助金の対象として採択した。その内訳をみると、ベトナム(15件)が最多で、それに次いでタイ(6件)が多くなっている。(図表3)

製品別にみると、新型コロナウイルスの蔓延で供給不足が問題となったマスクや防護服などの衛生用品・医療器具/機器のほか、安全保障上、調達先を一元化することにリスクがあると見られる半導体やレアアース・レアメタルなども支援の対象となった。  また、日系企業以外についてもエレクトロニクスや軽工業の製造拠点をメコン5に移管するとの報道も出ている。

4・ 生産移管の恩恵を享受するにはメコン5には課題も

生産移管の動きが本格化するまでには、数年単位の時間を要すると見た方がよいだろう。

コロナ禍がいつまで続くか不確かなため、当面企業は具体的な事業計画を立てづらい上に、新型コロナウイルスの蔓延により企業業績が悪化しているため、生産移管に伴う投資コストを確保するのも一朝一夕にはいかないはずである。

世界的に第二波、第三波の感染が広がる国も出ており、今は感染が落ち着いている国についても予断を許さない状況にある。そのため、感染拡大の懸念が払しょくされるためには、ワクチンの普及を待つことになりそうだ。

既に米国や日本といった先進諸国は数億本単位のワクチンを確保していると報道されているが、メコン5については依然として必要量に達していない国も散見され、ワクチン接種が遅れるリスクも指摘されている。

さらに、投資環境がいまだ未熟であることも進出の妨げになりうるだろう。例えば、インフラ整備が十分に整っていないことが挙げられる。電力供給量や港湾のコンテナ処理能力不足がボトルネックとなり、生産移管が進みにくくなる懸念が残る。また、タイ以外の国では、現地調達率も低く裾野産業が育っていないことも課題となるだろう。

5・ おわりに

9月28日に世界銀行が発表した経済見通しを見ると、メコン5の成長率は新型コロナウイルスの影響で今年こそ大幅減は避けられないが、その後は力強い回復力を取り戻し、22年には中国の成長率を上回ると予想されている。

他方、日本は当面弱い回復が続くと言われており、メコン5のように発展が著しい地域の成長力を取り込めるかは日本企業にとって以前にも増して重要な論点となるはずだ。


みずほ銀行バンコック支店メコン5課

E-Mail : mekong5@mizuho-cb.com

98 Sathorn Square Office Tower 32nd-35th Floor, North Sathorn Road, Silom, Bangrak, Bangkok 10500 Thailand

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop