【連載26回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記 “タイの経理現場より”

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タールア社編(第5回)「煩雑なアドミニストレーション業務」

【前回までのあらすじ】
~謄本内容を確認したところ、署名権者が3人ともタイ国外在住であったタールア社。タイでは各種書類に署名が求められる場面が多く、それら書類に係るアドミニストレーション(管理)業務が意外と煩雑で多いのだ…~

経理まわりで、日常的に発生する頻度の高いアドミニストレーション業務。それは源泉票の発行だ。これが結構厄介で、VATの非課税事業者でなくとも、支払う立場にある会社側で対応せねばならず、しかも月単位で源泉額をまとめたものを申告納付する必要まである(※1)。
この申告業務という場面で、ようやく我々のような会計事務所の出番となる。
タールア社では、我々の出番が回ってくるまでに、日本語が割と堪能なアドミニストレーションスタッフのサリーさんが源泉票を支払い先に発行するのだが、この時に注意することがある。受け取る請求書には源泉額が記載されていないことが多いのだ。注意して読むと、「上記金額より3%の源泉を控除してお支払い下さい」などと記載されていることもある。いずれも取引先の会社次第だが、記載されていないことの方が多いかもしれない。
源泉税についての記載がない時に取るべきアクションは何か。そう、非常にベタだが正解は「相手先に源泉税率を聞く」である。皆さんも心当たりはないだろうか、オフィスでアドミニストレーションスタッフが、取引先かどこかと頻繁に電話している光景を。
それだけではない。VAT事業者は取引先に対してTAXINVOICEを役務の内容に応じて発行するが、この記載要件は税法でもきっちりと定められていて、TAX IDの記載はもちろん、当然、会社住所のスペルミスも許されない。
これを怠り、気付かないまま処理をして、税務調査に入られた時に指摘を受けると、税金として費用にならないことに加え、ペナルティまで加算されるので厄介だ。そういった確認も含めて、取引の多い会社は、大概スタッフが年中取引先やサプライヤーといったところに電話やメールで確認する羽目になるのだ。
さて、タールア社においても御多分に漏れずこの状況が当てはまる。取引先やサプライヤーとの日常的なやり取りは、外注するのは相応しくないことがもうお分かりだろう(※2)。
今にして思えば必然であったのかもしれない。アドミニストレーション業務分担の境界線が不明瞭なままで、署名権者のタイ不在が重なるタールア社に、その後トラブルがやってくる
のは…。
( 次回に続く)

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
タイで事業をしていると、源泉所得税は切っても切り離せない税務対応事項だ。過去にも何度か取り上げているが、あくまでもサービスの提供などを受けた法人(支店や駐在事務所を含む)が相手側に支払いをする場合、相手側に代わって相手側の法人税の納付をする行為である。支払う側にとっては元々支払う金額に変わりはなく、相手に支払う分の一部を税務署に納付するのであるが、この時、気を付けなければいけないのは支払義務者に申告納付義務があるという点だ。そのため、怠ると、罰金や追徴などが支払義務者に発生してくる。相手先からの請求書には源泉税率が記載してある場合もあれば、不明な場合もあり、記載してあっても間違っていそうな場合は相手先との確認が必要になる。
経理を内製化していない会社で、アドミニストレーションスタッフが上記の全てを最初から対応するのはさすがに厳しい。経理業務委託先などに源泉票の発行だけ委託するか、その委託先から自社スタッフが慣れるまでレクチャーを受けるかなど検討する必要がある。
(※2)
サプライヤーが支払う項目や金額がほぼ一定であればまだしも、VATについては受ける側がVAT票などを発行準備する必要があり、取引先との売上やそういった類のやり取りを、外部の経理委託会社が代行するのは、さすがに取引先からしても違和感があるはずだ。
また、この業務は発注書や請求書、売上金の回収管理業務などとも切っても切り離せず、これらは通常社内のバックオフィスの一連のフローの中に組み込まれているはずで、仮にVAT票だけを切り出した場合、かえって全体のフローが滞る可能性すらある。

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、
顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
http://aporter.co.th/

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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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