【連載第31回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

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ラカン社編(第2回)「レビュー始まる」

~現地MD歴早10年の空川さん。営業畑出身だが、タイ現地法人でのプレゼンスが大きくなるほどに、本社経理サイドからの要求も多岐に渡ってくるようになった。本来の営業や統括業務に集中できないということ から、財務諸表レビューの依頼を受けたのだが…~

ラカン社では、売上管理にデータベースファイルを活用しており、クライアント別に販売商品の個数や金額の管理もさることながら、仕入れ時のデータ管理にもこのファイルを使っている。そのため、このデータベースファイルさえ正しく管理と運用ができていれば、会計上の粗利益も当然一致するはずである、というのがそもそものスタート地点である。

「毎月、倉庫の管理会社が棚卸でカウントされているものを活用しているんですよね?随分、会計上のデータと粗利益率が異なりますが…」。
「そのはずなんですが、私も細かいところまではフォローしきれていなくて。倉庫管理会社からのデータを元に、社内のスタッフが会計処理しているはずです」。
「では、倉庫管理会社とのやり取りについては、御社スタッフに直接聞いてみますね」。
空川さんとやりとりをしていて思った。よくあることだが、日本人駐在員は現場のフロント面については細かく把握している一方で、バックオフィスの業務内容については社内分担はおろか、外注先との分担をも把握しきれていないことが多い。こういった入口の現状を整理をするだけでも、問題解決に大きく前進することがある(※1)。
空川さんとは、さらに専門的な内容まで確認を続けた。
「倉庫管理会社で作成しているこの月末棚卸残高上の数字には、どこまで原価算入されるべき内容が盛り込まれていますか?例えば、為替リスクや関税、輸送代などがあると思うんですが。それから社内データベースファイルの管理上、原価算入すべき費用はどのタイミングで認識していますか?そうそう、そもそも倉庫管理会社で認識している払い出しの基準って統一されてますか?出荷納品時が通常だと思うんですが、クライアントからの要請などによって一部だけ進捗管理基準だったりなどしますか?あと、倉庫管理会社と社内データベースファイルとのデータの整合性などの確認は、いつもどのようにされてますか?不良在庫が発生したときの対応フローは?」
などなど、質問を受ける空川さんも大変だ。しかしこちらも業務として承ったからには聞き漏れのないよう、限られた時間の中で網羅的、効率的に現状を洗い出さなければならない(※2)。丸一日かけたヒアリングと資料レビューから見えてきたものとは…。
(次号に続く)

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

(※1)
どういうわけか、社内での営業フローについてはよく把握しているのに、バックオフィスのフローについては全く把握しておらずノータッチのケースが多い。聞いてもそれが正しいのかどうか判断できないというのが理由の大半だ。まず自社内でできることとして、内部統制の整備という観点でも、バックオフィスのスタッフそれぞれにWork Descriptionを提出してもらうのがお勧めである(これは意外に、それほど時間がかからず出てくることが多い)。引き継ぎ文化がなく、契約社会の傾向が強いタイでは、スタッフレベルでも自分の業務領域については、常日頃から意識が高く記載しやすいものと思われる。

(※2)
この手の業務サポートでは、最も基本的な手法だが、まずはタイ人スタッフを伴い、現場で手を動かすタイ人スタッフと日本人責任者への両方へのヒアリングやディスカッションを必ず現場で行うことが重要だ。現場に入ることで、タイ人スタッフ同士でもコミュニケーションを通じたリレーションの醸成が後日何かとフォローに役立つ。実務上でも、何らか思い当たって追加で書類をリクエストした際に出てきやすいという利点や確認の効率性アップにもつながる。スタッフに分からないよう行うことが前提の不正調査やM&AのDue Diligenceなどを除けば、極力現場に出ることが鍵となるのである。

 

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Accounting Porter Co., Ltd.
代表者 : 但野和博
所在地 : 24 Prime Building, 12th Fl., Room No.A, Sukhumvit 21 Road (Asoke),
Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110
電話番号 : 02-661-7697
事業内容 : 記帳代行、経理コンサル、進出支援等、顧客企業の事業の発展に寄与するサービス業
提携先 : 愛宕山総合会計事務所 /
日本 (代表 : 日本国公認会計士相川聡志)
E-mail : kazuhiro.tadan@aporter.co.th
HP : http://aporter.co.th/

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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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