ミャンマーの最新ビジネス法務

第15 回 卸売及び小売事業の規制緩和

第15 回 卸売及び小売事業の規制緩和

堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士

東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。SAGA国際法律事務所(www.sagaasialaw.com)代表であり、2016年2月よりタイにTNY国際法律事務所(www.tny-legal.com)を設立した。タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

はじめに

2018年5月9日に商業省は卸売及び小売事業を外国会社に開放する内容の通知 (商業省2018年第25号通知。以下、「本通知」という)を発布した。従来、Tradingと言われる、卸売、小売、貿易事業は原則として外国会社が実施することが2001年以降禁止されていた。

2011年の民政移管後に徐々に開放され、近時、商業省の各通知により、自動車、肥料、種子、殺虫剤、医療機器、建設資材、農業用機器等については一定の要件の下、外国会社が卸売を行うことが認められた。また、投資法に基づき2017年に発布された規制業種通知においては、ミニマート等を除き、小売及び卸売も商業省の許可を得れば実施可能な業種とされたものの、実務上は外国会社が商業省から当該許可を取得することは極めて難しかった。本通知は一定の品目に限らず、全面的に卸売及び小売事業を外国会社に認めた点、及び、どのような基準で許可が認められるかを明確化した点に意義がある。
以下、本通知の概要及び留意点を説明する。

本通知の概要

「小売」とは、一般大衆に対して、再販売の目的ではなく、使用又は消費の目的のために比較的少量の物品を販売することを意味する。「卸売」とは、小売業者及び製造業者に大量の物品を販売することを意味する。対象品目について、制限・禁止品目を除くとの記載があるが、それ以外の限定は特に加えられていない。2018年7月26日に商業省よりNewsletter No. 3/2018が発布され、当該レターにおいて、販売が優先的に認められる24品目が規定されている。

要件としては、一定以上の初期投資が要求されており、外国資本とミャンマー資本の割合によって最低初期投資金額が異なる。すなわち、外資又はミャンマー資本が20パーセント未満の合弁企業が卸売業を営む場合、初期投資額が500万ドルより多い額である必要がある。

小売業を営む場合、初期投資額は300万ドルより多い額である必要がある。ミャンマー資本が20パーセント以上の合弁企業が卸売業を営む場合、初期投資額は200万ドルより多い額でなければならない。小売業を営む場合、初期投資額は70万ドルより多い額である必要がある。ミャンマー内資会社は、支出が可能である初期投資費用で小売業及び卸売業を営むことができる旨規定されており、明確な初期投資額は規定されていない。
上記の要件を満たしたとしても、完全外資又は合弁企業は、929平方メートル以下の売り場のミニマート及びコンビニエンスストアを運営することはできない。

留意点

初期投資額について、本通知後に発表された関連文書において、3年以内に全額の投資が必要であり、かつ、全てを資本金として入れる必要がある旨が明確化された。
また、投資の内容について、土地の賃料については含まれない旨が明記されており、建物の賃料については取り扱いが明らかでない。投資額について、会社単位ではなく、事業(店舗)単位と解されている。また、卸売・小売の両事業を行う場合には、両事業の合計額が必要とされる。

例外として禁止されたままである「ミニマート及びコンビニエンスストア」については定義が存在せず、どのような場合にこれらに該当しないのかについては明らかでない。
以上のとおり、留意点も多く存在するものの、小売及び卸売について明確に開放する旨の通知が出たことは大きな意味があり、今後の運用が注目される。

gototop