ミャンマーの最新ビジネス法務

第16回 新会社法の施行状況及びその対応

第16回 新会社法の施行状況及びその対応


堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士

東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。SAGA国際法律事務所(www.sagaasialaw.com)代表であり、2016年2月よりタイにTNY国際法律事務所(www.tny-legal.com)を設立した。タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

はじめに

ミャンマーの会社法(The Companies Act, 1914)を大きく改正する新会社法が2017年12月6日に成立した(以下、 「新会社法」という)。新会社法は18年8月1日から施行され、現時点(18年10月18日)で約2ヵ月が経過した。現地での現状をお伝えする。

電子申請制度

新会社法では、既存の全ての会社(支店も含む)が19年1月末日までに再登録手続きを行う必要がある。当該手続きは投資企業管理局(DICA)が運営する電子システム (MyCO)上で可能である。そのため、多くの会社が8月1日にMyCO上での再登録を試みたものの、すぐにサーバーがダウンし、アクセスできない状態が続いた。

また、7月23日以降は新会社法施行の準備のためにDICAが閉鎖されており、会社を新規に設立する場合も8月1日以降にMyCO上で申請するよう指導がなされていた。そのため、新規の申請も8月1日に殺到し、サーバーがダウンする前に登記をできた会社はわずか2社であった。

翌日には5日までMyCOをクローズし、6日から再開する旨のアナウンスメントがなされた。DICAによれば、今後はサーバーを4、5台増設し、同様の事態の発生を防ぐとのことであり、実際にそれ以降はサーバーが停止する事態は発生していない。

実際の運用

8月6日以降にMyCOの運用が再開されたため、当事務所もクライアントの再登録手続きなどを行った。感想としては、確かに必要書類なども簡易化され、申請は旧会社法下と比較して容易になったと思われる。他方、簡易化され過ぎた結果、どのように悪意のある第三者による申請を防ぐのかについて疑問を感じた。

現在の運用では簡単に誰もが偽造書類などを電子申請することにより他社の登記情報を変更することができると思われる。このような事態が生じた場合に、真の権利者による回復の申し立てが簡単にできるのか、DICAがどのようにそのような権利侵害を防ぐのか、権利侵害者に対して実際に罰則が適用されるのかなどが注目される。

今後の対応

前述のとおり、既存の全ての会社は2019年1月末日までに再登録手続きを行う必要がある。期限までに再登録を行わない場合には、事業を継続することが認められない。

また、新規の設立の場合も、MyCO上の申請の方が従来の紙で提出する形よりも申請料が安く設定されており、MyCOを活用することが望ましい。

さらに、MyCOにおいては、企業情報が一定程度開示される予定である。開示を得るためには手数料を支払う必要があるものの、従来は企業情報は第三者が取得することが難しかったのに比べ、当局から登記上の情報を取得できるようになることにより透明性が高まり、外国会社の定義の変更と相まってM&Aなどが増加することが予想される。

直近で多い依頼としては、再登録業務に加え、定款の作成業務である。新会社法下では、定款を会社ごとに作成することが可能となったため、新会社法に合わせた修正や、合弁契約を反映した定款を作成する企業が増加している。

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