ミャンマーの最新ビジネス法務

第19回 商標法

第17回 ラベルにおけるミャンマー語の表示義務

堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士

東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。SAGA国際法律事務所(www.sagaasialaw.com)代表であり、2016年2月よりタイにTNY国際法律事務所(www.tny-legal.com)を設立した。タイ法及びミャンマー法関連の法律業務(契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

問い合わせ先:yujit@tny-legal.com

はじめに

 2019年1月30日、ミャンマー商標法(以下、「商標法」という)が成立した。本法の施行日は、大統領の通達により決定される。そして、その通達は19年4月1日時点では未だ発布されていないので、本法がいつ施行されるのか明らかでない。また、商標法の作成に関わった者によると、商標法が施行されたとしても、商標の登録を担う機関である知的財産庁が設置されるのは、早くて20年になるとのことである。

 したがって、商標法は成立してはいるが、日系企業が直ちに対応しなければならないことは少ないものの、日系企業が対応を検討するべき事項も存在する。そこで、本稿においては、全ての企業が対応するべきかどうか検討が必要な事項に焦点をあてる。

日系企業が留意すべき条文

 商標法93条(b)は、「登記所において商標が登記されていたか否かにかかわらず、実際にミャンマーにおいて使用されていた商標は、当該商標を付していた商品又はサービスについて、一定期間、特権を享受することを許可されなければならない」と規定する。「特権を享受することを許可されなければならない」とは、文脈からすれば、特権を享受することができるという意味であると考えられる。

 では、「特権」とは何であろうか。まず、定義規定では「特権」とは、商標法31条に規定されている権利であるとされている。パリ条約もしくはWHOの加盟国において先に商標の登録申請をした者又は当該者から商標の登録申請した地位を譲渡された者が、その最初の申請から6ヵ月以内にミャンマーにおいて、当該商標を使用し始めた場合、先に申請した日にミャンマーにおいて申請したものとみなす特権を享受する。つまり、「特権」とは、会社Aが日本で2019年4月1日に商標登録の申請をし、19年6月1日にミャンマーにおいて日本で登録された商標を使用し始めて、19年7月1日にミャンマーにおいて、商標の登録申請をすると、ミャンマーにおいても、19年4月1日に商標登録の申請をしたものとみなされるという権利である。この「特権」は名称の通り、強力な権利である。なぜなら、商標の登録は、基本的に早いもの勝ちだからである。つまり、他者がある商標を登録してしまえば、その商標は原則登録できない。

 以上の「特権」が、商標法93条(b)の要件を満たせば享受できるということは、現在も実施されている登記法に基づく商標登記をしていても、登記していない者がより以前からその商標を使用していたことを証明できれば、早いもの勝ちの原則のもと、商標を登録できなくなるという可能性がある
ことを意味する。

考えられる日系企業の対応

 上記のように商標を登記していなくとも、先に使用していたことを証明できた者が商標登録で優先される可能性がある。したがって、2019年4月1日時点で、商標を登記している企業も登記していない企業も、自社がいつからその商標を使用していたかを証明するようなものを収集しておく必要がある。たとえば、商品を販売するときのパンフレットなどの収集が考えられる。また、少なくともミャンマーにおける登記法に基づく商標登記が未了の場合には、直ちに登記法に基づく登記を行うことが望ましいと解される。

以上より、ミャンマーでの法律の運用は実際の運用を待たないと分からないことが多いため、本稿で解説した運用が実際行われるかどうかは不明である。しかし、実際に運用された場合には、商標を他者に登録されてしまう損害は計り知れない。したがって、商標がいつから使用されているかを証明するパンフレットなどの収集や登記法に基づく登記などの対応を行うことが望ましいと解される。

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