ミャンマーの最新ビジネス法務

第25回 ミャンマーにおけるCOVID-19の影響と法律上の対応策

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1.COVID-19関連の政府の政策

世界中で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による影響が出ており、ミャンマーにおいても現時点(4月26日時点、以下同)では、COVID-19の感染者計146名が公表されている。それに伴い、相次いでミャンマー政府からCOVID-19の影響に関連する政策が発表されている。主な政策は以下の通りである。

ミャンマー大統領府はCOVID-19の感染拡大を防ぐため、大勢の人々が集まるイベントや式典を4月30日まで開催しないよう通達した。ミャンマーの国民的行事である水祭りも含まれる。

ミャンマー中央銀行は、4月1日より政策金利を合計1.5%引き下げ、年8.5%にしている。政策金利の変更は2012年以来、8年ぶりとなる。ミャンマーでは政策金利に応じて、民間銀行の融資及び預金の金利の幅が決まる形となっており、担保付き融資の上限は現在の13%から11.5%に、預金金利の下限は8%から6.5%にそれぞれ引き下げられた。

労働・移民・人口省より社会保障に関する2つの通知及び1つのインストラクションが発布された。COVID-19の影響で事業所を一時閉鎖した場合、社会保障委員会が本当に閉鎖しているかを審査し、真に閉鎖していると認められれば業務再開までの期間は社会保障料の支払が停止される。また、社会保障料の支払いについて通常は翌月15日までに支払う必要があるが、3ヵ月以内という形に変更になった。

3月26日より省及び地方政府が政府機関で勤務する人員を50%にし、残りの50%は自宅勤務とする旨を大統領府が発表した。そのため、今後は行政機関の業務が遅滞する可能性が予測される。

さらに、外交官などを除き、5月15日まで全タイプのビザ発給の停止や、外国人入国者に対するCOVID-19陰性証明書の提示義務付けを発表している。

2.法律上の取り扱い

ミャンマーでは、COVID-19のような病気対策に関連する法律として伝染病予防管理法が存在する。しかし、当該法律は主な伝染病又は法定伝染病が発生した場合、発生区域の保健局員は感染した住宅、工場、職場、店舗、建物などの検査、衛生及び他の必要な措置を講じる義務があると規定しており、検査の主体は企業ではなく保健部署の職員が行う旨規定されている。そのことから、直ちに企業が同法に基づいて従業員の出勤を停止させる等の措置を取ることはできない。

また感染の疑いのある従業員への対応について、感染の疑いがあるというだけの理由で一方的に自宅待機を命じた場合、会社の業務命令による待機として、休暇を使用したことにもならず、通常の業務時と同様の賃金を支払う必要がある。そのため、まずは医療休暇等を使用する形で休みを要請することが望ましい。

この場合、法定の条件を満たし、且つ所定の日数の範囲内であれば有給となる。勤務期間が短いなどの理由で休暇を有しなかったり、有給での休みを避けるためには、当該労働者との間で話し合った上で、休む必要性を理解してもらい、賃金の一定割合をカットする等を合意の上で休みを取ってもらう形も考えられる。その際、その後の紛争を避けるため、必ず当該合意の内容を書面に残し、サインを取得する必要がある。

さらに、業績不振や原材料の輸入の停滞等を理由として休業することも考えられるが、日本と異なりミャンマーの法律上は、休業時の補償について規定されていない。したがって、企業が一方的に休業を理由として自宅待機を労働者に命じた場合には上記と同様の理由により、法律上は休業期間中も企業が全額賃金を支払う必要があると解される。そのため、休業前に労使間で協議を行い、休業期間中の賃金カットの割合などで合意を結び、書面を作成した上で休業を行う必要があると解される。

3.今後の対応

法律上の義務がないとしても、従業員の不安に配慮した対応をしなければ退職することもあり得る。COVID-19終息後に速やかに元の状態に戻れるよう、会社側の考えや情報を共有することも重要である。

ミャンマーの保健・スポーツ省のウェブサイト※においてCOVID-19に関する情報が掲載されている。常に最新の情報を取得した上で適切な対応を採ることを心掛ける必要がある。

http://mohs.gov.mm/Main/content/publication/2019-ncov

お問い合わせ

堤 雄史(つつみ ゆうじ)

堤 雄史(つつみ ゆうじ)
TNY国際法律事務所共同代表弁護士

東京大学法科大学院卒。2012年よりミャンマーに駐在し、駐在期間が最も長い弁護士である。TNY Legal (Myanmar) Co., Ltd.代表であり、グループ事務所としてタイ(TNY Legal Co., Ltd.)、マレーシア(TNY Consulting (Malaysia)SDN.BHD.)、イスラエル(TNY Consulting (Israel) Co., Ltd.)、日本(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、メキシコ(TNY LEGAL MEXICO CO LTD)が存在する。タイ法、ミャンマー法、マレーシア法、日本法、メキシコ法及びイスラエル法関連の法律業務 (契約書の作成、労務、紛争解決、M&A等)を取り扱っている。

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