日刊工業新聞

研究自動化 ビジネスになるか SIer、商機探る

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ヒト・カネ・モノに課題

ロボットシステムインテグレーター(SIer)が、実験を自動化するラボオートメーション(LA、研究自動化)に挑戦している。自動車や電機の次は三品産業(食品、医薬品、化粧品)へのロボット導入が進んだ。この次にラボがある。研究開発で高品質で体系的なデータが求められるようになったためだ。職人技に頼らない安定した研究環境の構築が急がれる。だが実験作業の自動化は一品モノの装置開発に近い。理化学機器など専用装置メーカーは強い。どこに商機があるのか。

予算問題

「普通にやったら利益は出ない。ライフサイエンス周りで手痛い思いをした会社は少なくないはずだ」と水戸工業(東京都千代田区)の成田隆造専務は苦笑いする。同社は自動車産業などで鍛えられた技術商社だ。独フエストと組んでLAを提案している。分析機器を輸入販売するだけでなく、実験システムの構築を請け負う。
SIerがLAで苦労するのは、大学など研究機関の予算制度と専用装置との接続性、学生を中心とする安価な人件費が背景にある。第一に大学の研究室では学生への人件費は基本的に発生しない。人手でできる作業にお金を払ってまで自動化するモチベーションが起きにくい。
次に国立大学や研究機関は年度予算で運営されている。複雑な自動化システムは設計や構築、運用まで1年以上かかることがある。研究室にロボット技術者がおらず、メーカーがバグ取りや技術サポートを継続的にフォローする必要がある。
しかし単年度会計ではサポート代を捻出しにくい。結果、装置の値段にサポート代が計上されて価格に反映されている。一品モノで開発された装置も、論文を書き終えたらスクラップ同然になることが少なくない。

単体で完結

分析装置や実験機器など、専用機メーカーの技術は洗練されている。ロボットSIerが気軽に参入できるほど甘くない。専用機は人間が使うことを想定しており、周辺機器との接続を前提としていない。インテグレーションしたくても難しい状況にある。成田専務は「スイッチ一つで完結する装置にしないと研究者も使いこなせない」と指摘する。周辺機器とのインテグレーションよりも、単体で完結する自動化装置を提案している。
コスモテック(埼玉県入間市)の大橋翔社長は「LA予算は大きくても1,000万円。下は30万円から」と明かす。FA(工場の自動化)よりも小さな予算でも利益を出せるのはアクチュエーターを自作しているからだ。社内で駆動機構とプログラムを制作して調達コストを抑えている。

自立運用促す

ニーズが多いのは分注機だ。すでに自動分注機は市販されているが、ピペットの先をガラス製のチップに代えたり、専用の容器に分注したりと細かな改造に市販品が応えられないためだ。
メーカーが汎用的なシステムを目指しても、研究者のやりたいことはもっと多様なため市販品だと用途が限定的になってしまっていた。そのための拡張性も担保されていない。研究者は自身でシステムを拡張するほどの力や時間がない。
大橋社長は「研究者が市販の直動機器を買って組めば解決する問題は多い。ただ精度出しやバグ取りに時間を割く余裕がない」と指摘する。若い研究者も時間を買うために同社に相談している。
そこでコスモテックでは、自動化の流れやこつを研究者に教えることから始める。自動化すべき作業の抽出法や自動化後の運用まで教えて、早期に自立運用できるように促している。現状は丸ごとサポートしている。この負荷を減らす工夫が重要になる。
※記事提供:日刊工業新聞(2021年1月13日)

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