【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

【連載】半歩先読み、タイ自動車市場 ~タイ自動車ユーザの実態と展望~ 第5回

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第5回 E85対応車の市場は、長期的な継続性に課題がある

NRIは、「エコカー」「ピックアップ」「E85対応車」「安全性・装備」の4項目を選び、ユーザニーズの変化と政策の効果を検証した。具体的には、バンコクおよび地方都市ウボンラーチャターニー(以下、ウボン)で対面式の簡易アンケートを行うことで、ユーザニーズを把握した。
本稿では「E85対応車(※1)」の結果について述べる。

E85対応車向け政策の内容と影響

タイは、エネルギーの輸入依存度を下げることを主目的に、バイオエタノールの利用を促進している。推進の歴史は古く、1970年代から王室支援でバイオエタノール研究が進められてきた。2000年以降、バイオエタノール生産振興策の整備が進められ、2006年頃には生産工場が増加し、生産・普及が軌道に乗った。
バイオエタノールを利用するE85対応車も、政府主導で市場拡大を推し進められてきた。タイ政府は、2009年にE85対応車への税制優遇措置を発表したのを皮切りに、2013年にはUGR91(エタノールを混ぜていないレギュラーガソリン)の販売を停止するという策まで実施した。2016年1月の新物品税導入では、E20対応車への税制優遇を廃止し、E85対応車に支援を集中させた。これらの政策の後押しを受けて、各自動車メーカはE85対応車を市場に投入しており、今後もラインナップを拡充する構えである。
しかし、E85対応車への政策支援がどれだけ続くかは、タイのユーザがE85を認知し、E85の使用を増やしていくかどうかに依存している。そのため、タイのユーザの考えをよりよく把握していく必要がある。

E85対応車に対するユーザの認識

タイのユーザにE85への認知度を確認したところ、内容について知る人は約2~3割にとどまった(図1)。実際に、自動車用燃料使用量におけるE85の占める割合は3.3%程度(2015年)である。さらに、昨今の石油価格の下落によって、E85と一般燃料との価格格差が縮小しており(図2)、ユーザが短中期的にE85を積極的に使うようになるとは考えにくい。
E85の使用量が増えなければ、政府としてはバイオエタノール利用促進を目的にE85対応車を財政的に支援する意味合いが薄くなる。ゆえに、E85対応車への政策支援の長期的な継続性は不確かであると考えられるため、当分野に限定した大型の開発投資は慎重に検討していく必要があるといえる。
次回は、アンケート結果を踏まえて、安全性・装備に対するユーザの購買傾向について考察する。
(次回、ArayZ12月号に続く)

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※1 ガソリン15%とエタノール85%を混合した「ガソノールE85燃料」に対応した乗用車

執筆者:野村総合研究所タイ

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シニアコンサルタント
山本 肇

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主任コンサルタント
吉村 英亮

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《業務内容》経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、 情報システム(IT)コンサルティング、産業向け IT システム(ソフ トウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd.,
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