ASEANビジネス法務 最新アップデート

転換期にあるネパール、 近時の法改正について

ASEANビジネス法務 最新アップデート 転換期にあるネパール、 近時の法改正について

1.ネパールの近代史と法的沿革
 世界一の標高を誇るエベレストを擁し、世界で唯一の四角ではない国旗を持つネパールは、ゴータマシッダールタ(仏教の開祖)誕生の地でもある。内陸の山国であるため平地も少なく、港湾へのアクセスもない。

 このような不便な国だからこそ独立を保ち、独自の文化と慣習を保持できたとも言える。インド半島に君臨したムガール帝国(16~19世紀)もネパールを支配しなかった。19世紀初頭のネパール・イギリス戦争に負けた際も、奪われた土地の多くはまもなく返還され、ほぼ現在の領土に相当する地域を保持してきた。

 法制度の整備に関しても、他の南アジアの国々が基本的に植民地支配のもとイギリス法系(コモンロー)の体制を築いてきたのに対し、ネパールは王の指示によりナポレオン法典(フランス=大陸法系)を研究して「ムルキアイン法典」を1853年に成立、最近まで依拠してきた。

 そのような中、ネパールでは2008年に王政廃止・共和国制へ移行、09年左派政権誕生、17年ムルキアイン法典の分割改正、18年新憲法発布、連邦制へ移行と大きな転換期を迎えている。

2.ムルキアイン法典の分割改正
近年、民法・刑法・民訴法・刑訴法を包括するムルキアイン法典の分割改正作業が進められ、民法(Civil Act)、民事訴訟法(Civil Procedure Act)、刑法(Criminal Act)及び刑事訴訟法(Criminal Procedure Act)が17年についに成立した。

民法には従前のネパールに規定のなかった一般的な不法行為が定められたほか、国際私法の章が設けられ、外国人・外国企業との人的関係・取引関係の法的整理が試みられている。なお、原則として外国人の不動産取得は認められていない。

3.会社法
06年会社法を改正する形で17年会社法(Companys Act 2017)が成立した。改正法では、商号や商標等の保護、非公開会社の株主数の上限拡大、非公開会社から公開会社への転換の自由化等が定められた。会社登録の手続の短縮やオンライン申請についても整備され、会社の設立や運営の簡便化が図られた。またマネーロンダリング防止のための規定が整備された。

さらに、公開会社における女性取締役選任義務化、重要取引の株主総会承認要件、取締役の株主総会出席義務(ビデオ会議等は緊急時のみ認められる)、会社や取締役への訴訟提起権の短期消滅時効(原因を知った日から2年間)等、企業活動に影響を与えうる重要な点を多く含んでいる。

4.労働法
改正前の労働法は10名以上の従業員がいる場合のみに適用があったが、改正法ではそのような制限はなくなり、ただ従業員の数に応じて義務付けられる措置が設けられた。

雇用契約は、普通雇用、特定業務の完成を目的とした雇用、期間雇用、1ヵ月あたりの就業日や週あたりの就業時間を限ったもの、そしてインターンと柔軟な形態が認められている。労働時間は1日8時間で週48時間、残業は週24時間とされており、時間外の賃金は通常の賃金の1.5倍である。ネパールの週休は1日だけ(通常は土曜)である。

5.海外投資関係の法令
海外投資については、19年外国投資・技術移転法が規制しており、海外投資は同法に設けられたネガティブ・リストに該当しない業種のみに認められる。現在、ネパール政府はインフラ等の大規模投資を見込んで海外投資の最低額を5,000万ネパール・ルピー(1ネパール・ルピー=約1円)と定めており、中小規模の海外投資にとっては障壁となっているが、この金額は状況に応じて変更されることが予想される。

志村 公義

志村 公義
One Asia Lawyers 南アジアプラクティス代表(インドの提携事務所Acumen Juris法律事務所に出向中)
2001年弁護士登録。外資系法律事務所において外資系企業への日本投資案件の法的助言を行う。その後、日系一部上場企業のアジア太平洋General Counsel、医療機器メーカーのグローバル本部(シンガポール)での法務部長等、企業内法務に約10年間従事した経験を踏まえて、ASEAN及び南アジアにおける日系企業のコンプライアンス体制構築、内部通報の導入支援、コンプライアンス監査、研修、不正対応等の対応を行う。現在はインドに常駐し、インドをはじめとしたバングラデシュ、ネパール、スリランカ、パキスタン等の南アジアの法務案件の対応を行う。

One Asia Lawyers
One Asia Lawyersは、ブルネイを除くASEAN全域及び東京にオフィスを有しており、日本企業向けにASEAN地域でのシームレスな法務アドバイザリー業務を行っております。2019年4月1日よりインドプラクティスを開始。

【One Asia Lawyers 法律事務所 南アジアデスク】
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