ASEANビジネス法務 最新アップデート

海外インフラプロジェクトの法的留意点―アジア新興国編―(5)

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海外インフラプロジェクトの法的留意点に関する連載の最後として、過去アジア新興国において紛争案件を対応してきた 経緯を踏まえて、当地における紛争対応の留意点について述べる。

アジア新興国における紛争解決

まず、大前提として係争地規定を巡る問題の中で意外にも認識されていないことは、相手方の資産が存在する国との間で相互協定等が存在しなければ、日本国内での裁判上の判決は執行が不可能ということである。係争地規定は、とにかく日本の裁判所にしておいた方が良いという言説が見られるが、これはクロスボーダー契約実務においてもっとも避けなくてはならない悪手である。

他方、カンボジア、ラオス、ミャンマー等のアジア新興国の裁判制度は、汚職や裁判官の能力不足等という問題があり、現時点において利用することは推奨されない。また、カンボジアやラオスにおいても、現地に仲裁機関や仲裁制度が存在するものの、過去の経験を踏まえると同様に利用することは推奨できない。

そのため、新興アジアでの紛争処理については下表の考えに基づいて、第三国においてある程度信用が確立されている仲裁機関にて当事者間で仲裁合意を得るべきである。

係争地規定のポイント

ある程度信頼がおける第三国の仲裁機関で合意していたとしても、相手方国での外国仲裁判断の承認執行について問題が生じる可能性がある。

アセアンや南アジアの新興アジア諸国は外国仲裁判断の承認執行に関するニューヨーク条約※の加盟国であるが、現地裁判所での外国仲裁承認事例が限定的で事例が蓄積されていると言い難い状態であり、現地国での承認執行手続きの実施可否や手続き上の留意点について十分に確認する必要である。

例えば、現在ラオスにおいて外国仲裁判断の承認執行手続きを行っている事案があるが、問題となっている契約書の準拠法がラオス法ではないことを理由として、ラオス外務省、司法省、裁判所等での承認執行のプロセスが進まない状態となったケースもある。

ラオス仲裁法上、準拠法について如何なる規制も存在しないが、執行国の仲裁法の承認執行の拒絶事由や手続きのみならず、このような実務、運用上の留意点等についても十分に確認することが肝要である。

※ 正式名称Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards (New York, 1958)。加盟国同士は外国における商事仲裁についての仲裁判断が、他国の裁判所によって承認執行が可能となる。加盟国一覧はhttp://www.newyorkconvention.org/countriesで確認可能

まとめ

アジア新興国において近年、インフラプロジェクトが増加している。しかし、これまでに述べたような問題以外にも政府による輸入申請、手続が円滑に実現できず、建設部材や建設設備が十分に整わないため工事に遅延が生じることもある。

また、国際建設インフラ契約約款(FIDIC契約約款)等では紛争裁定委員(Dispute Board)の選任を推奨しているが、当事者間で合意がなされなかったり、相手方国において適切な人材が存在しない、もしくはコストの問題等で紛争裁定委員の選任が全く進まない事案等、様々な問題に現場では直面している。

アジア新興国では、司法制度が十分に整っていない点もあり、紛争化すると著しく不利な立場に状況に追い込まれるケースもあるため、とにかく紛争を生じさせないように予見できるリスクをできる限り洗い出し、事前に対応策を構築しておくことが極めて重要である。

寄稿者プロフィール
  • 藪本 雄登 プロフィール写真
  • 藪本 雄登

    One Asia Lawyersの前身となるJBL Mekongグループを2011年に設立、メコン地域流域諸国を統括。カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー、ベトナムで延べ10年間に亘る駐在・実務経験を有し、各国の現地弁護士と協働して各種法律調査や進出日系企業に対する各種法的なサポートを行う。インフラプロジェクトについては、タイ、カンボジア、ミャンマーにおける道路敷設や鉄道、上下水道、高速道路のメンテナンスなどの開発プロジェクト、ラオスでの電力開発案件等も支援。

    E-mail:yuto.yabumoto@oneasia.legal

  • One Asia Lawyers
    One Asia Lawyersは、アジア全域にオフィスを有しており、日本企業向けにアジア太平洋地域でのシームレスな法務アドバイザリー業務を行っております。2019年4月1日より南アジアプラクティス、2020年11月よりオーストラリア、ニュージーランドプラクティスを本格的に開始。
  • 【One Asia Lawyersグループ タイオフィス】
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