新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略

自動車アフターセールスにおける顧客の選択変化

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

東南アジアで新車販売の成長が鈍化する中、アフターセールスの重要性は本コラムでも何度か論じてきた。今回は我々ローランド・ベルガーが本年にタイ、ベトナム、インドネシアで行った消費者調査を基に、自動車アフターセールスに関するいくつかの示唆を紹介したい。
なお、今回提示した調査内容以外にも多面的な分析が行われているので、ご興味を持たれた方は是非お問い合わせいただきたい。

自動車所有者による主体的なチャネル選択

図表1の「自動車のアフターセールスでどのようなチャネルを利用するか」という問いに対して、注目すべきは実に68%が複数のアフターチャネルを使い分けている点である。

フォーカスグループや個別インタビューによると「保証が効く期間はメーカー認定工場」「単純な整備は価格を重視して個人経営工場(パパママ系)」「独立系部品含めて幅広く検討したい場合はチェーン型パーツショップ(B-Quik等)」といったように、自らの判断で都度チャネルを主体的に選択している。

我々が10年近く前に行った調査では、複数チャネルを使い分けると答えた自動車所有者は60%程度だった。SNSでの情報取得が一般化する中、他業界・他商材でも消費者とメーカーの情報格差が無くなってきている。それはここ東南アジア、そして自動車業界においても同様だ。アフターセールスの重要性が増す中で消費者の主体性が高まり、顧客を自社のチャネルに誘導することが難しくなっていると言えるだろう。

メーカーを主語にもう少し詳細を見ると、実は「他チャネルも使うが、メーカー認定工場も利用する」という層は88%に至る一方、「メーカー認定工場のみを利用する」という、いわゆるロイヤルカスタマーは23%に留まってしまう。

つまりアフターセールスにおいて、メーカーが完全にコントロールできている顧客は4人に1人にも満たない。ロイヤル化できていない一方で、付かず離れずの顧客が多いのである。

だが、異なる見方をすれば90%近い自動車所有者に対して「メーカー認定工場が少なくとも何らかのリーチができている」とも言える。新車販売後も接点はあることを好機と捉え、綿密な営業コミュニケーションやマーケティングで他チャネルへの流出を防止していく必要がある。

チェーン型パーツショップを主語に見ると、このチャネルだけを利用する顧客層は1%しかいない。

チェーン型パーツショップは、アフターチャネル全体でのシェアを上昇させている注目業態だ。しかし、誤解を恐れずに言えば、まだ「メーカー認定工場や個人経営工場と併用されるチャネル」に過ぎない。独自性をより強化し、ロイヤリティを高めていくことが求められる。

メーカー認定工場/チェーン型パーツショップへの示唆

メーカー認定工場、チェーン型パーツショップはどういった方向性でロイヤリティを高めることができるか。具体的戦略はここで語り切れるものではないが、そのヒントとなる調査結果をいくつか提示する。

図表2の「各アフターセールスチャネルを利用する理由は何か」では、個人経営工場は価格が40%と圧倒的な選択理由となっている。メーカー認定工場やチェーン型パーツショップ選択の価格要因が25%であることを考えると、個人経営工場がいかに価格で訴求しているかが分かる。

一方で、メーカー認定工場とチェーン型パーツショップの選択理由に大きな差異はない。自動車所有者はこの2つを似たような理由で選んでいるのだ。言い換えればチェーン型パーツショップは明確な差別性を打ち出せていないということである。

チェーン型パーツショップにとって検証が必要な調査結果がもう一つある。図表3は車齢別のチャネル構成比だが、車齢が高まると顧客はメーカー認定工場を離れる傾向にある。保証が切れることが理由として大きい。

だが、離れて行く先はチェーン型パーツショップではなく、低価格が売りの個人経営工場が最大である。これらを見ると今は好調なチェーン型パーツショップも、早晩差別性を見失って行き詰まる可能性もあるのではないか。

最後にメーカー認定工場に向けて、価格センシティビティの調査結果を示したい(図表4)。

実は、メーカー認定工場を選ぶ顧客の56%が、10%の価格差(安さ)があれば別チャネルへと動いてしまうことが調査から分かる。また、逆に安さを求める個人経営工場の顧客でも「高いサービスレベルに対しては10%を超える高値を払う」と回答する層が38%存在する。

そこには複雑な消費者心理が隠れているが、一つ言えることは、個人経営工場を選ぶ自動車所有者も安ければ何でも良いと考えているわけではないことだ。無駄な価格競争を避けて、メーカー認定工場がシェアを高める術はあるのだと考える。

寄稿者プロフィール
  • 下村 健一 プロフィール写真
  • Roland Berger下村 健一

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのASEANリージョンに在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。

\こちらも合わせて読みたい/

Vol.8 コスト最適化に向けたEコマース戦略

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop