サシン経営大学院日本センター 藤岡資正所長が聞く対談

第9回 ニーズに応じて教育内容も多様化

第9回 ニーズに応じて教育内容も多様化

 文化服装学院バンコク校は今年で15周年を迎えた。東京の文化服装学院(本校)とタイとの関係は古く、同校への海外留学生の第一号は1955年のタイ人であったという。バンコク校のソンポン学長にバンコク校の学生の受講態度や卒業後の進路などについて話を伺った(聞き手:藤岡資正)。

個性を伸ばしながら社会的ルールを身に付ける

 10年前は大学を出た後に当校でスキルを身に付けて、産業界に就職する学生が多かったのですが、現在では卒業後に自分でブランドを立ち上げる学生も増え、求められているニーズも多様化しています。

 現在の入学者は毎年50名弱で、その内の約半数が大学卒です。一つのクラスの年齢構成は非常に多様で18歳から45歳くらい、国籍は90%がタイ人です。残りはカンボジア、ミャンマー、日本人もいます。現在、授業はタイ語のみとなっていますが、レポート課題は英語でも受け付けています。教員はフルタイムで12名。その内日本人が2名、タイ人の先生には当校の卒業生も多くいます。

 タイ人と日本人の学生で、決定的に違う点はいくつかあります。作業スピードという面ではタイ人は遅い傾向がありますが、能力が劣るのではなく、やり始めるのが遅いのです。何か食べていたり、おしゃべりをしていたり、のんびりとしてますね。もちろん、優秀な学生は日本人よりも良い作品を仕上げてきますが、学生間の能力差が大きいのも特徴です。 

 日本人は時間で動く民族ですが、タイ人はその辺りが緩やかです。押し付けようとしても、人から何を言われても、自分はこうだから変えないという頑固さもあります。ファッション業界は、そういう人の方が向いている面もあるのですが、やはり規則の中で動くことは大切です。社会的なルールを守った上で、表現をする部分で個性を出すのです。

ファッションを趣味からビジネスへ

 昔は、ほとんどの学生が自分のブランド設立を希望していたのですが、2年間の就学を経て、考えは変わっていきます。さまざまな体験を通じて、ファッションビジネスはそれほど楽ではないことを理解するのです。卒業生で最も成功例が多いのは、当校のスキル教育の強みを活かしたパタンナー(デザインから型紙におこす職)でしょうね。

 多くの大学でCreative thinkingなどが教えられるようになってますが、パターンに関しては徹底的に学ぶことでドレスメーカーに依頼せずに自製できます。今後は、マーチャンダイジング(商品計画)やファッションビジネスモデルを学ぶことが必須であり、藤岡先生ともご一緒できればと思います。今後、東京とも連携していくことが必要だと考えています。

対談を終えて by 藤岡 資正 氏

 美を表現するタイ語は数多くあるが、見た目のみではなく、内面から溢れ出る生き生きとしたあり様も含まれるという。経済規模の大小は誰でも測り比較することができるが、美については人それぞれの価値観と連関する。コロナ禍で外から与えられた価値観が崩れる中、私たち自らの生き方に対する美的判断が問われているのかもしれない。

ソンポン・スーントムタムロング氏
写真撮影:石田直之氏

略歴

ソンポン・スーントムタムロング
ソンポン・スーントムタムロング氏。大学卒業後、サハグループ傘下のタイワコールに約30年間勤務。その間、Bunka設立時の2005年に出向者として、卒業プロジェクトなどを手伝う。タイワコールを数年後に定年退職し、正式に同校のダイレクターとして、経営に加わることになった。

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