サシン経営大学院日本センター 藤岡資正所長が聞く対談

第11回 原点に立ち戻り存在価値を自問自答

サシン経営大学院日本センター 藤岡資正所長が聞く対談

世界に占める日本の名目GDP(国内総生産)のシェアは1995年で17.6%あったが、2020年には5%、40年には3.8%まで低下するという。これは10年前に出された経済財政諮問会議の専門調査会の報告の予測よりも厳しい数値だ。欧米のみならずアジアにおける日本のプレゼンスの低下について、欧米企業のトップを経験した後、現在は電通(タイ)のCEOとして活躍するナロン氏に語ってもらった(聞き手:藤岡資正)。

自信を無くしてしまった日本企業

日本企業にはかつてアジア企業のお手本として尊敬の眼差しが向けられていました。アジア企業は何か新しい問題に直面すると日本企業を参考にしようという時代もありました。しかし、この十数年で状況は大きく変化しました。

少子高齢化に加えて、グローバル化やデジタル化の進展によって、目まぐるしく経営環境が変わり、中国をはじめとするアジア新興国の急速な成長によって、現在では逆に日本企業がアジア企業を参考にしなくてはならない場面が増えています。

日本企業は原点を見つめ返せ

かつて称賛された日本的経営についても、最近では否定的な意見が目立ちます。例えば、日本人の働き方はとても保守的で意思決定が遅い。駐在員は日本本社や社内政治を気にして、業績の帳尻合わせに時間を費やしています。

でも、私は日本企業の良い面に目を向けたいと思います。電通に入社した際、会社を理解するために私は東京で働くことになりました。そこで個別ではなくチームで助け合うという意識に感銘を受けました。

欧米企業で働いていた時、あるプレゼンテーションの準備をする際にシンガポール(地域統括会社)に助けを求めると、「これでお金を払ってくれるのか?」ということを聞かれました。

一方、電通では日本本社に協力を求めると「私たちに何ができるか教えてくれ。喜んで手伝おう」というメッセージが来ました。「今、何を得ることができるのか」と、社交辞令があるとしても「将来私たちは何を達成することができるのか」では全く意味合いが違います。

日本企業は、競争力の低下によって自信を喪失しているように見えます。しかし、変化の時代だからこそ、改めて、ファンダメンタルな価値に立ち戻らなければなりません。創業者の考えに立ち戻り、事業のミッションを今一度見直してDNAを引き継いでもらいたいと思います。

対談を終えて by 藤岡 資正 氏

コロナ禍によって組織や既存の仕組みに揺らぎが生じている。しかし本来、生命体は細胞を守るのではなく壊すことで変化へ対応している。「変わらないために変わること」が求められているのであり、核心にある価値(伝統)を引き継ぐためにこそ革新が求められる。

ナロン・トレスチョン
略歴 ナロン・トレスチョン氏。大学卒業後に仏系・日系企業の営業職に就職するも、広告業界への夢を諦められず、米国に留学。MBA取得を経て、欧米系広告代理店に就職。その後25年間、活躍の場を現場から経営側に移す。16年末に、電通(タイランド)のCEOに就任し、現在に至る。
写真撮影:石田直之氏

藤岡 資正
サシン経営大学院日本センター所長
藤岡 資正 氏
Dr. Takamasa Fujioka


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