SBCS タイ経済概況

Vol.3 コロナ禍でも中国向け輸出は増加

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タイ商業省が発表した5月の貿易統計(米ドルベース)によれば、輸出額は前年同月比▲22・4%、輸入額も同▲34・4%となり、輸出入ともにおよそ11年ぶりの大幅下落となった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う景気悪化により、中国を除く主要輸出先の需要が落ち込んだことが主な要因。輸出仕向地では、29・1億米ドルだった中国が首位で、21・7億米ドルの米国、16・1億米ドルの日本がそれに続いた。

統計を眺めていると「あれ?」というデータと出合うことが時々ある。

例えば、コロナの影響で落ち込んだと思われたタイの輸出が3月は対前年同月比で4・4%、4月は5・4%増加した。原因を探ると「金」「戦車・装甲車」「航空機」といった品目に行き着いた。

それぞれ、タイではほとんど生産していない品目である。確かに北部にChatree Gold Minというタイ最大の金鉱が存在し、オーストラリア企業が所有している。2016年には環境問題を理由として閉鎖されニュースになったので、覚えている方もいるだろう。

この金鉱は現在も再開できておらず、タイ全土でも金はほぼ採掘されていない。従って、輸出されている金は貯蓄されていたか、輸入されたものと考えられる。

戦車・装甲車は軍事演習で持ち込まれたのを送り返したため「輸出」としてカウントされた模様だ。航空機はタイで製造しておらず、主に格安航空会社(LCC)がASEANのグループ会社間で機体を融通する際に販売していると考えられる。

ということは、タイでの付加価値がないモノによって「輸出額が増加」となったのだ。そこでこれらの影響を引いてみたところ、やはり前年同月比で3月は▲6・0%、4月は▲10・4%となった。

5月になるとついに輸出の減少額を金の増加では補いきれず、総額は▲20・8%、上記品目を除くと▲27・8%となった。輸出先の国別で見ても軒並み二桁減である。

そんな中、中国向けは17・6%増加している。輸出品目を探るとドリアン、マンゴスチン、自動車が伸びていた。確かにドリアンは中国向け輸出が好調という話を聞いていたが、不思議に感じたのが自動車だ。「タイから中国に自動車を輸出」という事例をあまり聞かないからだ。

調べていくとドイツ系の自動車メーカーがタイから中国向け輸出を伸ばしていることが分かってきた。ASEANと中国の間には自由貿易協定(FTA)があるので活用しているのだろう。タイは19年に200万台の自動車を生産したが、中国は月に200万台超が売れる市場。タイから中国市場を取りに行くのも面白いかもしれない。

コロナで人の往来は難しくなったが、せめてタイ産のモノは世界に羽ばたいて経済を潤して欲しいと願う。

タイからの輸出額 (単位:バーツ)

寄稿者プロフィール
  • 長谷場 純一郎 プロフィール写真
  • SBCS Co., Ltd.
    Manager, Business Promotion Division
    長谷場 純一郎

    奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、10年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。12年から18年までジェトロ・バンコク勤務。19年5月より現職。

SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

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5月〜7月 ○ 経済・政治関連トピック 2020

経済

プラユット首相を議長とする26人の委員から構成される、国家第5世代通信規格(5G)委員会が5月13日に発足した。デジタル経済社会省が事務局となり、5Gサービス推進を図る。

5G周波数は民間大手3社および国営2社が獲得しており、今年中に本格的な5Gサービスの開始が期待されている。また国家放送通信委員会(NBTC)は、5G導入に伴うインフラ環境の向上によりタイへの長期滞在を希望する外国人の在宅勤務需要を取り込む狙いから、タイを在宅勤務のハブとする計画を5G委員会に提案する。


タイ投資委員会(BOI)は6月17日、農業分野の投資条件や恩典を「BCG(バイオ、サーキュラー〈循環〉、グリーン)モデル」に基づき修正したことを発表。技術とイノベーションの活用を促進し、付加価値と生産性の向上を目指す。

新しく奨励事業に加わった植物工場は、高品質な農産品の安定的な生産に貢献するとして、投資恩典として5年間の法人所得税免除が付与される。

また、ペットフード、動物飼料、野菜・果物・花・農業廃棄物由来製品等の包装および保管といった、テクノロジーの導入や持続可能な開発を促す事業に対する恩典も修正された。


タイ中央銀行(BOT)は6月24日、2020年の経済成長率が▲8.1%になるとの予測を発表。新型コロナウイルスによる影響の深刻さが増したとして、3月時点の▲5.3%から下方修正した。同様に、商業・興行・金融合同常任委員会(JSCCIB)は7月1日、予測をこれまでの▲3.0~▲5.0%から▲5.0~▲8.0%へと引き下げた。

タイの20年経済成長率について、6月18日にはアジア開発銀行(ADB)が▲6.5%、24日には国際通貨基金(IMF)が▲7.7%、さらに30日に世界銀行が▲5.0%との予測を発表している。


盤谷日本人商工会議所(JCC)は6月30日、会員企業を対象に行った20年上期景気動向調査の結果を発表した。業況感を示すDI(Diffusion Index)は、19年下期が▲24、20年上期(見通し)が▲69、20年下期(見通し)が▲44となり、プラザ合意による激しい為替変動があった1985年の調査以来35年ぶりの落ち込みとなった。

2020年上期は新型コロナウイルス感染拡大によりタイ経済、世界経済ともに減速しDIは全業種でマイナスを示したものの、下期はマイナス幅が縮小する見込み。

NESDC経済予測値(2020年5月18日発表)

政治

タイ政府は個人情報保護法の複数の条項について、適用時期を延長する勅令を5月19日に閣議決定。本法案の実質的な適用は21年5月31日より後となった。

本件措置は、新型コロナウイルスの流行ならびに政府機関および民間企業への準備期間に配慮したもの。なお、個人情報保護法は19年5月に施行され、今年5月27日から適用の予定であった。


タイ政府は6月30日、タイ全土を対象とした非常事態宣言の適用を7月31日まで延長する旨を発表。非常事態令第9条に基づく決定事項(第11号・第12号)を官報に掲載し、経済活動の規制緩和第5弾として7月1日から学校や各種施設の再開を許可したほか、タイに越境入国できる対象者や条件を公表した。

(注)7月29日に8月末までの延長が決定された

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Vol.2 コロナを契機に変化するタイ社会

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