SBCS タイ経済概況

Vol.4 経済の悪化は底を打った模様。ところが・・・

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タイ中央銀行は9月23日に中銀金融政策委員会(МPC)を開催し、2020年の経済成長率予測を前年比▲7.8%へと上方修正。6月時点では▲8.1%と予測していた。なお、タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)は8月17日に▲7.3~▲7.8%との予測を発表している。

タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)から8月17日に第2四半期の経済成長率が発表された。その結果、アジア通貨危機の影響を受けた1998年第2四半期(前年同期比▲12.5%)以来の同▲12.2%という記録的な悪化となった。

第2四半期とは4月~6月。非常事態宣言が3月26日に施行されてから4月末に向けて厳しい制限措置が導入され、5月から徐々に制限の緩和が進んだ。

7月1日から第5弾緩和で公立学校、パブ等の営業が再開され、強制的に閉鎖されている事業はほぼなくなった。すなわち第2四半期は経済活動が最も弱まった時期なので、急激な落ち込みとなったのは当然だろう。

毎月、消費者信頼感指数、設備稼働指数、貿易統計、自動車の国内販売・輸出台数等多くの経済指標が発表される。これらの指標から、タイ経済は4月、5月に底を打って回復してきていることが読み取れる。もちろん、全ての指標が前年同月比ではマイナスではあるが、減少幅は減ってきているという意味だ。

しかし、悪化を続けている統計がある。雇用関連の統計だ。第2四半期の失業率は1.95%という数字が出ている。通常、この数字はタイ統計局(NSО)が毎月発表しているのだが、2020年4月~6月に関しては月次データの公表がなく第2四半期分のみ発表された。日々状況が変化するコロナ禍においては毎月発表される統計数値の方がより重要になってくる。

そこで私が注目しているのが、いわゆるサラリーマンが加入している社会保険加入者数と失業保険申請者数である。直近では労働省が7月の数字を発表している。それによると社会保険加入者数は前年同月比▲3.96%の1117万人。前月(6月)比でも▲1.12%となっており被雇用者数が減少してきている。

一方、失業保険申請者(過去からの受給者も含む)数は前年同月比2.1倍(前月比3.6%増)の41万人。うち、解雇を原因とした申請者数は前年同月比5.5倍(同22.0%増)の17.8万人と増加し続けている。

失業保険申請者数を社会保険加入者数で割ると7月のサラリーマンの失業率は3.67%。失業保険の受給期間が終わって、まだ仕事に就けていない人はこの計算に含まれないので実態はもっと悪いはずだ。

雇用情勢が厳しくなる中、治安が急激に悪化している様子は今のところない。食料が豊富にあるタイの強さなのかな、とも思っている。

寄稿者プロフィール
  • 長谷場 純一郎 プロフィール写真
  • SBCS Co., Ltd.
    Manager, Business Promotion Division
    長谷場 純一郎

    奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、10年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。12年から18年までジェトロ・バンコク勤務。19年5月より現職。

SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

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7月〜9月 ○ 経済・政治関連トピック 2020

経済

7月24日、タイ国鉄(SRT)はドンムアン、スワンナプーム、ウタパオの3空港を連結させる高速鉄道建設プロジェクトの、第2期区間開発に関する事業説明会を開催した。

第2期では、ウタパオ空港のある東部ラヨーン県からカンボジア国境と接するトラート県までの190キロメートル区間を時速250キロの高速鉄道で結ぶ計画。総事業費の試算額は1,017億バーツで、2028年の開業を目指しPPP(官民連携)方式での開発が検討されていること等が説明された。

第1期区間にあたるドンムアン空港からウタパオ空港までの建設・運行に関しては、昨年10月に地場大手財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループが主導するコンソーシアム、「イースタン・ハイスピード・レール・リンキング・スリー・エアポーツ」が受注している。


国家経済社会開発委員会(NESDC)は8月17日、20年第2四半期の経済成長率を前年同期比▲12.2%と発表した。内訳を見ると、輸出が同▲28.3%(物品輸出:同▲15.9%、サービス輸出:同▲70.4%)、輸入が同▲23.3%(物品輸入:同▲19.3%、サービス輸入:同▲37.9%)、民間消費と民間投資はそれぞれ、同▲6.6%、同▲15.0%でともに減少。

一方で、政府支出と政府投資はそれぞれ、同+1.4%、同+12.5%でともに増加した。産業別では、農業が同▲3.2%、製造業が同▲14.0%、サービスが同▲12.3%。産業別の詳細においても、建設(+7.4%)等を除き軒並みマイナスとなった。

また同日、NESDCは同期の失業率を2.0%と発表。失業率はここ数年、1%前後で推移しており、大幅な悪化となった。


タイ国投資委員会(BOI)が発表した投資統計によれば、上半期(1月~6月)の新規投資申請件数は前年同期比+7%の754件、申請金額は同▲17%の1,589億バーツだった。

このうちタイ政府が誘致を強化している重点産業への申請が金額ベースで52%を占め、中でもBOIが4月に新たな奨励策を発表していた医療産業については、申請件数が同2.7倍の52件、申請金額も同2.2倍の131億バーツと大幅に増加。

また、海外直接投資(FDI)は新規申請件数が同+5%の459件、申請金額は同▲34%の759億バーツであった。国・地域別では日本が申請件数99件、申請金額226億バーツで最多だったが、申請金額は同▲45%落ち込んだ。


バンコク日本人商工会議所(JCC)は8月28日、20年度賃金労務実態調査の概要を発表。20年の賃金上昇率(中央値)は製造・非製造業ともに4.0%、19年度の賞与(中央値)は製造業が3.4ヵ月、非製造業が2.5ヵ月であった。

なお、本調査は4月13日調査票発送、5月22日締切のため新型コロナウイルスのその後の影響については反映していない。

政治

7月12日、タイ政府は新型コロナウイルス感染拡大による経済支援策を官報に公示、即日施行となり、歳入法典に基づき一定の条件を満たした事業者は月額賃金が1.5万バーツ以下の従業員の、賃金の3倍の金額を経費計上することが可能となった。

19年9月30日までに終了した会計年度の売上が5億バーツ以下で、従業員数が200名以下であること。また、20年の4月~7月の各月末の社会保険加入従業員数が同年3月末から下回っていないこと等が条件として挙げられている。


タイ政府は8月25日の閣議にて、付加価値税(VAT)の税率7%の適用期間について、期限となっている今年の9月末よりさらに1年延長することを承認した。

VATの税率は法律で10%と定められているものの、長らく暫定税率7%が適用されており、10%への移行は先送りされ続けている。

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