【連載第53回】但野和博のコンサルコラムサポート実録記

シーポム社編(9)
「給与水準の攻防」

(前回までのあらすじ)
〜メイさん退職後、新派遣体制として新ポジションの2名を追加投入し、これでようやく望んでいたバックオフィスの体制が整ったかに思いきや、まさかのタイミングで要となるべきムマさんから…〜

ムマさんから直接ではないが、山雲さんやムマさんから話を聞いたシニアマネージャーからの又聞きで、「この給与水準では続けるのは難しいので辞めさせて欲しい」という残念な申し出があった。これまで何度も経験してきた、よくある突然の退職の申し出。タイに長くいると慣れるように思えるが、いやはやこれだけは慣れないものだ。それに派遣として送り込む元請けの立場もあり、通常以上に残念なことだ。

あとにして思えば、予兆はあったのだ。その少し前くらいに。

「ムマさんから親が病気ということで給与を前借りしたいと言ってますが、どうします?」とシニアマネージャーから言われたのが、その1、2ヵ月くらい前のことだった。

日本的な常識からするとないだろうし、親が病気というパターンにあまり良いイメージもなく、かといってそういった理由は日本的にはセンシティブなのでつっこんで聞きにくいしなあと逡巡しながらも、結局は貸すことにしたのだ。というのも新体制が始まった矢先でムマさんには期待もあったからだ。≪※1≫

そんなムマさんからの退職の申し出に対し、すぐに八雲さんと善後策を話し合った。すぐに代わりも見つからないし、これまでの功績もあることから残ってもらうことを前提に、プロパーとして採用してもらうことになった。そもそも給与を上げて残ってもらうにはそれしかない。

派遣していたために当然派遣料金が上乗せされたものになっているので、その分を本人への直接の給与として手当てし、かつそのままの額面だとポジション的にもシーポム社内ではバランス上説明できないので、正式にマネージャーとして採用してもらうこととなったのだ。派遣料金分がそのまま本人のポジション手当に変わったようなものだ。≪※2≫

そこまでする必要があるのかという意見もあったが、とにかくこれで安定してくれれば言うことはない。

その後、決算も乗り切った頃だった。本当に残念なお知らせとして、ムマさんのお母さんが闘病の末亡くなったということで、通夜に参列するかという相談がシーポム社からあった。これは本当に残念なことだったので、本人が給与額にこだわり、それを達成させてあげたことは少しははなむけになったと思ったのだった。もちろん、その対価に見合うだけの責任を負って業務を遂行できる期待と前提で…。 (続く)

 

※クライアント様の匿名性を保つために社名・人名等をはじめ、事実から離れすぎない程度の内容の変更等、脚色部分があります。

≪※1≫
親兄弟や親族が病気という理由はタイに長くいると一度は聞く理由だが、問題は退職するタイミングだろう。実際の理由はさておき、その後すぐに他社に転職したり、あるいは本当は別の理由にも関わらずそういうことにしておくと、辞める理由として引き留めにくいこともあって一般的な理由の一つとして今でも多いように思う。タイの場合はFB(フェイスブック)などソーシャルネットワークが浸透しているので、直接その本人と繋がってなくても、繋がっている他のスタッフからその人のFBでアップした記事などから、その後すぐに転職してましたよとわざわざ教えてくれることもある。気にするとキリもないし生産的でもないので一部そのようなネイチャーもあるんだくらいに構えておいたほうが精神衛生上良いかと思う。
≪※2≫
マネージャーというポジションの給与水準だが、その会社の業種や規模もさることながら、日本の親会社や現地代表のポリシーにもかなり左右されるために、他のポジションに比べるとその幅にかなりばらつきがある。タイでは親会社の規模というより、現地法人の規模でおおよそ決まってくると言う。とはいえ、地方の工業団地などの不足しがちな管理職であるマネージャークラスは10万バーツでも探せないとも聞くし、バンコク中心部では、ちょっと決算が締められるだけのマネージャーだと4万バーツ程度で決まるところもある。このように、その会社のマネージャーの定義と役割、事務所の場所、業種による希少性など、給与水準には様々な要因がある。

Accounting Porter Co., Ltd.
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但野和博
2012年5月タイ・バンコクにて、Accounting Porter Co., Ltd.を設立。日系企業の進出サポート及び経理を中心としたバックオフィスサポートを提供するサービス業として、同社を運営中。
日本での上場事業会社2社通算6年のCFO経験を活かし、日本本社部門との直接の対応を含み、現場では管理部門の立て直しを含めた相談にも対応している。
本コラムでは、タイの経理現場で起きていることを中心に具体的なサポート実例を交えて執筆中。

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