PwC タイビジネススタディ

サステナビリティ時代に取り残されないために

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企業を取り巻く重要リスクの変遷

近年、豪雨による店舗・工場の水没や地震による物流・交通網の遮断など、自然災害が社会・企業活動を脅かすリスクともなり、永続的な世の中を維持するための重要なファクターになっています。

そうした背景から、気候変動や自然災害による「環境リスク」や人権問題の発生といった「社会リスク」に対して多くの人が従前の認識を改め、世界的に高い関心を集めています。

特に2010年代以降はサステナビリティの時代と言われ、これまで企業にとって社会・環境が、慈善活動・利益追求とのトレードオフだったものから、長期的な企業価値の向上に向けた企業活動の前提へと意義が変容しています(図表2)。

政府・企業の取組

このような中、環境・社会課題をサステナビリティ課題と捉え、企業活動に組み込む動きが鮮明になっています。世界中の110を超える規制当局と政府機関が16年設立のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース※)を支持しており、一部の規制当局ではその採用が義務付けられています。

タイでは中央銀行および規制当局が企業にTCFDガイドラインの採用を奨励。主要企業が将来の低炭素経済への抱負を発表しており(図表1)、サステナビリティを意識した取組みが今後も加速していくものと予想されます。


図表1:タイにおける主要企業のサステナビリティ関連の取組み(公開情報より)

●CP Group
アジアの大手食品コングロマリットとして、農業部門の二酸化炭素排出量を削減し、消費者がよりサステナブルな食品選択を可能にする役割を担っており、2030年までにイノベーションの活用、パートナー・ステークホルダーとの連携により、事業の純排出量をゼロにする


●Siam Cement Group
2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにするという目標と循環経済を推進する4つの主要分野に焦点を当てたロードマップを含む「持続可能な化学ビジネス」の創出を目指している。また、顧客、ブランド所有者、および環境に配慮した消費者のための新しい製品とサービス、革新と技術を提供する


●Kasikorn Bank
長期的にはゼロカーボン組織を目指しているため、低炭素社会に貢献する上で極めて重要な役割を果たしてきた。気候変動の影響を適応させ、緩和するための方針は、事業運営の改訂、および環境に優しい事業への財政支援に関する方針とともに、KBankの持続可能な開発方針に組み込まれている


また、在タイ日系企業のうち特に国内市場をターゲットにしている企業にとっても、サステナビリティに関する政府要求・規制対応、対外的な報告等の機会が増えてくることでしょう。

企業が取り組むべき3つのステップ

このようなトレンドがある中で、在タイ日系企業はサステナビリティ課題に対してどのように取り組むべきでしょうか。

一般的に、環境・社会課題のようなサステナビリティに関するテーマは、リスクマネジメントの要素も含み、対象とする管理範囲が非常に多岐に亘り、日本本社や地域統括会社等の様々な社内ステークホルダーを巻き込みます。

そのため、対応すべき事項は優先順位を付けつつ、全社的な視点で緊密な連携および調整を行いながら中長期的に対応していくことが想定されます。計画を策定・実行に移していく際、PwCは図表3に示すサステナビリティフレームワークに沿って、3つのステップを推奨します。

【ステップ1】現状の成熟度評価

リスクマネジメントとサステナビリティの両面で、
自社の成熟度を可視化/診断

サステナビリティマネジメントの5要素である「戦略・目標の設定」「リスクの見直し・改訂」「パフォーマンス(リスクの識別・評価/優先順位・対応)」「ガバナンスとカルチャー」「コミュニケーション&レポーティング」のそれぞれにおける、自社の取り組み状況を整理のうえ、サステナビリティとリスクマネジメントの統合度合い(成熟度)を可視化します。例えば、「ガバナンスとカルチャー」においては、サステナビリティリスクの所管部署と役割・責任、管理方針・管理プロセスが明確化されているか、「パフォーマンス」においては、サステナビリティリスクの特性を踏まえた識別・評価・対応がなされているか等を確認します。


【ステップ2】将来目標・統合方針の設定

リスクマネジメントとサステナビリティの目指すべき姿・方向性を
検討し、 その実現に向けた課題への取り組み方針を設定

日本本社・地域統括会社、現地法人の経営層の意向や自社の理念などと照らし合わせつつ、サステナビリティフレームワークの5要素のそれぞれにおける状態目標を設定します。例えば、ステップ1の結果を踏まえて、「ガバナンスとカルチャー」ではサステナビリティリスクの種別ごとの所管部署と各部署の連携体制の構築、「パフォーマンス」ではサステナビリティリスクの ①時間軸の不確実さ ②影響経路の特殊さ ③影響範囲の広さ という特徴に適合する評価手法の確立を目標として設定します。


【ステップ3】統合計画の策定・実行

タイムラインや、アクションプランを検討し、
ステップ2で策定した方針を実行

ステップ2の目標達成に向けた具体的なアクションを洗い出し、実行に向けたタイムラインを具体化。その上でロードマップを策定し、実行に移ります。この段階ではサステナビリティとリスクマネジメントの双方を理解する専門性、そしてコーポレート部門(経営企画・リスク管理・サステナビリティ)と事業部門を取りまとめて社内ステークホルダーおよび部門横断的に連携を進める高い推進力が求められます。


ますます重要となるサステナビリティリスクへのタイムリーかつ適切な対応のために、サステナビリティとリスクマネジメントの統合は、今後の経営にとって必須のものとなるでしょう。

(※)16年に①気候関連のリスクと機会について情報開示を行う企業を支援すること、②低炭素社会へのスムーズな移行によって金融市場の安定化を図ることを目的で国際的組織、金融安定理事会(FSB)により設立された。
寄稿者プロフィール
  • 森 厚之 プロフィール写真
  • PwC Thailand Japanese Business Desk
    コンサルティング部門 マネジャー
    森 厚之

    日系損害保険会社(企業商品開発部門)、総合コンサルティングファーム(保険部門)を経て現職。これまで、保険・自動車業界、官公庁を中心にテレマティクス・MaaS等のデジタル、モビリティ、ファイナンス周辺の経営戦略・M&A、サイバーセキュリティ等のテーマおよび東南アジアにおけるクロスボーダー案件を数多く経験。2020年9月よりPwC Thailandに赴任。

    E-mail : atsuyuki.mori@pwc.com

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  • PricewaterhouseCoopers
    Consulting (Thailand) Ltd.
  • Tel : 0 2344 1000
    15th Floor Bangkok City Tower, 179/74-80 South Sathorn Road, Bangkok 10120, Thailand

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