ArayZオリジナル特集

「地域戦略」と「内なる国際化」が鍵 2015年タイ・GMS戦略のヒント

arayz dec 2014

タイ・アセアンで展開する日系企業に向けたメッセージを国立チュラロンコン大学サシン経営管理大学院サシン日本センターの藤岡資正所長に伺う年末恒例企画。激動の年となったタイの2014年を振り返るとともに、AECを目前に控えた2015年の展望を見出す。

非常事態を想定したビジネスプランを

近年のタイは毎年のようにデモがあり、今年はさらに2006年以来のクーデター、軍による暫定政権誕生と日本のニュースも賑やかした出来事が多々起きました。日本では考えられないようなことが次々と起きましたが、日本企業の経営に関していかがお考えでしょうか?

新興国でビジネスをする際には、非常事態宣言やクーデターなど日本では起こりえないようなことを(想定外)、起こりうること(想定内)として事業を進めていかなくてはなりません。もちろん、タイにとって2014年の出来事はマイナス要素であったことは確かですが、タイの歴史を知っていれば、ある程度のサイクルで繰り返しこうした政変が起こっていることを理解できるはずです。
中国などと比べて、政治と経済が比較的ゆるやかに結び付いている(loosely coupled)といわれるタイにおいて、これらの出来事は経済面にマイナスの影響を及ぼしたものの、アセアンの専門家たちや長年タイにおいて事業を営んでいる経営幹部の方々にとっては、今年の出来事は想定の範囲内であったといえるのではないでしょうか。
つまり、日本を基点としたリスクマネジメントではなく、新興国の社会的・制度的・政治的・歴史的なコンテクストに応じたリスクを想定に入れた事業展開が必要になります。国外、なかでも新興国へ進出する際には、経営の難易度は上がりますし、管理者に求められる守備範囲は広がると考えなければなりません。

arayz dec 2014

人口構造をみてみると、タイでは2025年頃から少子高齢化社会を迎えますし、核家族化が確実に進んでいます。タイの地方都市では、一昔前の日本のように、家族や近隣者など地域ぐるみで高齢者を世話するといった、いわゆる社会資本が豊かでしたが、経済成長にともなう近代都市社会の到来とともに失われつつあります。
現政権は、社会保障の整備などの財源確保を目的に、資産課税(固定資産税、贈与税、相続税)の導入を検討していますが、人口ボーナスの終焉と高齢化社会(人口オーナス)はもう目前に迫っており、早急に社会のセーフティーネットの整備を進める必要があるでしょう。

もうひとつ考えなければならない問題が、「中所得国の罠」からの脱出です。世界経済会議(WEF)によれば、国の発展には3段階あります。第1段階は、要素駆動型経済とよばれ、安い労働力や天然原材料が競争優位の源泉となります。第2段階は、効率性駆動型経済と呼ばれ、高付加価値な製品やサービスを生み出すことが競争優位の源泉になります。最後の第3段階は、イノベーション駆動型経済とよばれ、革新的製品やサービスを最新の技術などを軸に生み出すことが競争優位の源泉となります。タイは第1段階から第2段階へ移行し、第3段階への移行期に移ろうとしています。タイが先進国の仲間入りをするためには、高付加価値型の産業の育成や高度な技術力が求められますが、タイ独自でこれを獲得することは困難であるため、日本などの先進国と協力しながら産業構造の転換を戦略的に図っていかなくてはならないでしょう。
タイの産業政策は、自動車産業、電子機器産業などから、知識集約産業、環境産業、医療産業などへの移行を目標としていますが、産業構造のシフトには、近隣国との連携が不可欠です。これまでタイが担っていた役割を、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムなどの近隣国(CLMV)にバトンタッチしなくてはなりません。

arayz dec 2014

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