ArayZオリジナル特集

「地域戦略」と「内なる国際化」が鍵 2015年タイ・GMS戦略のヒント

大メコンでビジネスを考える

AEC(アセアン経済共同体)によって2015年から経営を取り巻く環境が急激に変わるような意見をよく耳にしますが、個人的には2015年から物事が急激に変わるということはないと考えています。正しくは、既に変化は起こっており、多くの優良企業は、その先を見据えた事業戦略を構築していることと思います。
私は、製造業を中心に、タイを基点とした、タイ+メコン戦略、あるいはタイ+CLMVに注目しています。つまり、AECではなく、陸のアセアン、なかでも、GMS(大メコン圏)と、インドネシア、フィリピンなどの海のアセアンという括りが経営上は、有用なのではないかと考えています。GMSは、人口が2億数千万人ありますし、中国、インドを加えると、世界人口の約半分の30億人が地球儀上のごく一部のサークルに集約されるという、地政学的にも非常に重要な地域であるといえるでしょう。
1992年にADB(アジア開発銀行)によってGMS構想が提唱されてから、メコン地域のコネクティビティーは飛躍的に高まりました。統計的に見ても、年々、域内取引量は増大しており、域内の関係性は深まっています。一国一国は小さな国々ですが、メコン大で捉えると非常に大きな可能性を持つことが理解できると思います。その中心に位置するタイと、タイ国内に一大産業集積を構築した日本にとって、両国が連携しながらこの地域の発展に寄与していくことが不可欠です。

コネクティビティーの3つの次元:人と人とのつながりを強化

arayz dec 2014

そもそもアセアンは多様性が高く、極めて不均一です。例えば、一人当たりGDPが1位のシンガポール(5万5000USドル)と10位のミャンマー(900USドル)では60倍以上の差があります。経営学的な観点は、こうした多様性、不均一性を戦略的に活用しながら、いかに生産ネットワークを構築していくかが大切になるかと思いますが、カギとなるのは、集約、分散、裁定、という3つの経済性を活用しながら、それを総合する戦略フレームワークです。
また、AECはタイ、シンガポール、マレーシアなどアセアンのなかのGDP上位国にはメリットが多いと言われていますが、カンボジア、ラオス、ミャンマーといった下位国ではデメリットの話題が盛んです。タイ国内とは対照的に、私が、ラオス商工会議所や政府関係者との会合で常に聞かれるのは、どのようにしてAECの脅威からラオスを守っていくべきかということです。
ご存知のように、AECには法的な拘束力がない分、各国の経済・社会にどのようなベネフィットがあるのか、特にカンボジア、ラオス、ミャンマーなどの後発国を包括的に発展させ、相互互恵的関係をいかに構築していくべきかを深く議論しなければなりません。これを抜きにタイの持続的な発展を考えることはできないという共通認識を、タイ国民が正しく持つことが大切でしょう。
アセアンには3つのレベルのコネクティビティーがあります。物理的つながり、制度的つながり、人的つながりです。ADBや日本国をはじめとする各国のインフラ開発支援による経済回廊の開発や友好橋の建設、港・空港の整備などによって域内の物理的なつながりは、この20年で格段に高まったといえるでしょう。また、AECは、主に制度的つながりを強固にしていくものといえますし、通関制度や各種手続きの統一などを通じて、さらに制度的なつながりは改善されていくでしょう。
しかし、これらコネクティビティーのコアとなるのは、経済活動のアクターであるヒトであり、人と人とのつながりを通じて、はじめてコネクティビティーが機能するのです。つまり、ヒトとヒトとのつながりを強化していくためのプラットフォームの創設が大切になるのですが、CLMVを横断する各経済回廊が活用されるようになるのであれば、例えば回廊沿いに「道の駅」のような休憩所と地域振興が一体化した施設の需要が生まれ、そこでは新たに雇用が創出される可能性があります。また、観光業の促進は、経済波及効果も大きく、地域経済の活性化につながる重要な政策であると思います。
産業面における人と人とのつながりについて、AECでは「高度職業人材のフリーフロー」を謳っていますが、一般労働者については認めていません。タイは慢性的に労働力不足で、周辺国からの労働力供給に依存しています。
なお、外国人がタイで働く場合は就労ビザとワークパーミットを取得し、タイの賃金体系に沿って就労することが基本となりますが、安い賃金で不法に就労させられているケースも少なくありません。経済成長に驕れることなく、経済発展に貢献している弱い立場におかれている外国人労働者を、尊重し、守っていく、という当たり前の意識をしっかりとタイ企業が持たなければ、持続的な競争優位の確立は難しいと思います。

arayz dec 2014

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