ArayZオリジナル特集

VATと源泉所得税の未還付問題

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

7. タイの税務調査

(1)概要

VAT未還付問題においても源泉所得税未還付問題においても、立ちはだかるのはタイの税務調査になります。
タイ税法の特徴は日本に比較して税務の詳細な取り扱いを定めた法令が決して多くないこと、さらに文言が曖昧であることが挙げられます。さらには、タイのVATは日本と同じく納税者が申告して納付しますが、還付申請の場合には調査が行われ、その際の現場の納税調査官の職権が強く裁量の余地が大きいことが特徴として挙げられます。会社側が税務調査官の満足いく資料が準備できない結果として、過大な額の所得金額を推計され課税されてしまうということも頻繁に発生しています。

(2)対象期間

税務調査において調査官が職務を行う権限を有すると定められている期間は、申告書の提出期限から2年間ですが、脱税の疑いがあるとして歳入局長官の承認が得られれば5年まで延長することが可能です。また、民商法では税務時効を原則10年にしています。このことから最悪過去10年間、少なくとも過去2年間は調査対象とされることに留意する必要があります。

(3)罰則

税務調査で、過少申告や無申告の事項が指摘されると、不足分の追徴税額が課されるだけでなく、加算税や延滞税も課されます。日本では、過少申告、無申告に対する罰則は、5%〜35%の範囲での加算税及び年率7.3%〜14.6%の延滞税となります。一方、タイでは過少申告、無申告に対する罰則は、最大で200%の加算税及び年率18%の延滞税となり、日本に比較して非常に重い罰則となっています。

(4)利益率の低い製品販売に係る原価の損金否認

タイの税務調査において特に日系企業を悩ませているのが、下記の歳入法65条の2(4)による追加課税です。

第65条の2(4)
正当な理由なく、財産の譲渡、役務の提供又は貸付金の貸与で、その対価、報酬又は利子がない場合又は市場価格よりも低廉な対価、報酬又は利子の場合には、税務調査官は市場価格をもってその対価、報酬又は利子を査定することができる

市場価格より低い価格をもって取引をした場合には、市場価格に直して課税をしますという趣旨の条文となります。つまり時価はmark to the marketとするという規定です。
税務調査においてこの条文を適用する際、文言どおり千差万別の製品に対して市場価格を一つ一つ検証することは実務上困難です。市場価格というのは需要と供給の関係により決まりますが、市場の機能により一定の価格に収斂されます。その一定の価格を供給者の業種の平均的な粗利率となる価格とみなし、製品ごとの粗利率を検証していき、粗利が調査官の想定していたものと比較して著しく低かったり原価割れしている製品の販売については、原価の一部を否認することで調査官が妥当と考えられる利益率まで修正することが求められます。
その際に粗利が低くなったことや、原価割れをした理由が市場価格の低下によるものであることを説明するのは非常に難しく、調査官に価格の妥当性を認められることは稀です。

(5)税務調査の方法

税務調査官の調査方法は大きく分けて3段階で実施されます。

【第1段階】
税務資料が適切に保管され、すべての税務資料や帳票の整合性が取れているかを確認していきます。もし不整合な部分や不明瞭な部分があれば、税額が大きくなるような修正指導がなされることも多々あります。

【第2段階】
金額の大きい項目の取引が税務上適切に処理されているかを確認していきます。法人税関連でよくある指摘事項としては、本来前期に益金として申告すべき項目が当期の益金に含められていた結果として、前期の納税不足を延滞税とともに納めるよう指摘されたケースや、日本本社から請求された費用がタイで損金計上できる要件を満たしていないため損金否認とされるケースがあります。VAT関連では保税地域を用いた取引についての適用税率の誤り(7%課税か免税か)に関する指摘が散見されます。

【第3段階】
会社全体の利益率の推移や製品別の粗利率などから粗利が赤字となっている製品を抽出し、前述の利益率の低い製品販売に係る原価の損金否認項目を確認していきます。

8. 未還付で悩む日系企業

上述のように、輸出企業に関してはVATの還付が、売上の大部分が源泉対象取引となってしまう業種の企業に関しては源泉所得税の還付が、それぞれ経常的に発生することになります。
どちらも金額が多額になるため、円滑な税金の還付はタイでビジネスを行う上で不可欠です。未還付問題で悩まれている日系企業、とりわけタイに進出してまだ年数が浅い企業に散見されます。
在タイの日系企業では日本人駐在員は技術と営業担当のみで、経理担当がいないケースが多いので、こういった日常の税務業務はタイ人経理マネージャーに任せっきりになり、日本人駐在員の注意が向きにくい部分です。還付申告期限の切れる3年以内に還付の申告をする必要がありますが、いざ還付申請しようとした際にタイ人経理マネージャーから還付はできないと突然言われてしまうという事が起こりえます。理由としては現在の経理状況が税務調査に耐えられる状況でないというものがよくある例です。還付できる状態にするようにとタイ人経理マネージャーに指示を出すも、そのタイ人経理マネージャーが困ってしまい退職、後任のタイ人経理マネージャーを雇いますが、どこにどの書類があるかも把握しきれない状態で、還付の期限のみが迫り困ってしまうというのが典型的なケースです。
その他の典型的なケースとしては、還付申請をするもののそれ以降歳入局から連絡が来ることはなく、長期に渡り税金還付の進捗状況が不明な状況に陥ってしまうケースです。このような場合には会社から歳入局へ進捗状況の確認の連絡を入れますが、その際に追加の資料の提出が求められ、準備をして提出をするもその繰り返しでいっこうに還付がなされる気配がなく煙に巻かれているような状況になり、資金繰りに困ってしまうということが多々起こります。

【税金還付までの障害】
①タイの厳しい税務調査
②歳入局担当者との交渉

次ページ:対策

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop