ArayZオリジナル特集

タイ進出製造業の新たな展開 医療機器業界参入のヒント

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arayz nov 2015

経済成長に伴い、新興国では医療ニーズが高まっている。
日本は政府主導で医療機器産業を含む保健医療の国際展開支援を積極的に実施。
医療機器産業はタイ国投資委員会(BOI)の投資奨励対象にも含まれ、日本およびタイ国内でも金型やプラスチック産業などから、その企業が培った技術を展開させて参入する動きも起きている。
今後の医療機器市場における国際展開について、その可能性を探る。

日本が成長戦略として掲げる国際展開

日本で医療の国際展開が進められている背景に、安倍内閣が進める成長戦略「日本再興戦略」がある。安倍政権がスタートした2012年、日本経済は需要不足から来るデフレ経済の真っ只中にあり、この状況を打破すべく、政権発足後、第1の矢として金融緩和政策、第2の矢として機動的な財政政策を打ち出し、対策を講じてきた。現在は構造改革として、第3の矢となる成長戦略を実行している。「日本再興戦略・改訂2015」は農業、医療、エネルギー、雇用など岩盤規制が残る分野で「戦後以来の大改革」と銘打って断行していくことを基本的な考え方としている。
同戦略では、日本経済の持続的成長には海外市場の需要を取り込んでいくことが不可欠であり、特に経済成長目覚ましいアジア市場における成否が、世界市場における成功の鍵を握ると謳われている。重要なのは、海外にモノやサービスを輸出するだけでなく、質の高い投資や協力を行うことで相手国とWin‐Winの関係を構築していくこと。そして、各国がモノ、カネ、技術などの国境を越えた移転を促進する経済連携協定の必要性が増しており、日本は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)をはじめ、TPPや日中韓FTAなどの経済連携交渉をスピード感を持って推進していくことが明記されている。
中でも医療については、国際展開(アウトバウンド・インバウンド)の促進、WHOなど国際的な組織と連携しつつ、新興国・途上国などに対してアウトバウンドの基盤となる保健サービス・システムの強化を支援すること。世界的な公衆衛生危機や高齢化・認知症などへの取り組みの場面で、日本の技術・知見を国際社会へ発信し、官民連携を通じた栄養改善事業の国際展開を推進していくことが記されているほか、「国際薬事規制調和戦略」に基づき、革新的な医薬品・医療機器などが世界に先駆けて承認される日本国内の環境整備や国際社会への積極的な情報発信、中長期的ビジョンやプライオリティを明確化した国際調和・国際協力の推進により、諸外国との薬事規制の相違などによる参入障壁を取り除くことで国内・国外メーカーの対日投資の呼び込みや、優れた製品の輸出拡大による日本の医療品・医療機器産業の活性化を図るとある。
日本政府の政策や各公的機関における支援策について、在タイ日本国大使館の内川昭彦経済部公使、唐木啓介一等書記官、JICA(日本貿易振興機構)タイ事務所の木下康光次長、JETRO(国際協力機構)バンコク事務所の梅北栄一次長に解説してもらった(以下、敬称略)。

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左から 在タイ日本国大使館・内川昭彦経済部公使、JICAタイ事務所・木下康光次長、JETROバンコク事務所・梅北栄一次長、在タイ日本国大使館・唐木啓介 一等書記官

 

官民連携が参入の鍵に

―この『日本再興戦略』の鍵となる施策、「改革2020」(成長戦略を加速する官民プロジェクト)で高品質な日本式医療サービス・技術の国際展開(医療のアウトバウンド)について触れられていますが、具体的にどのようなプロジェクトが動いているのでしょうか。

内川 日本の医療技術や知見、医療機器、医薬品に関する情報を世界に発信し、導入で得られるメリットや扱い方などをまず納得してもらうという、総合的なアプローチを推進しています。日本として途上国で医療向上に貢献していくことが相互の利益に繋がると考えており、さらに日本のような規制が採用されれば、日本国外での導入加速にも繋がります。タイには日本の技術や医療機器に親しんだ「日卒医」(日本の医学部を卒業した医師)の方が多くいます。そういった方々を対象に、今年2月には日系企業が直接PRするセミナーを開催し、日本の技術・製品の良さを知ってもらう機会を設けました。
同戦略では、2020年までに新興国を中心に日本の医療拠点を10ヵ所程度創設し、30年までに5兆円の市場獲得することを目標としています。13年4月には、医療の国際展開に当たり、政府関係機関、医療機関や企業などの取り組みにおける「ハブ」の役割を担う一般社団法人Medical Excellence JAPAN(MEJ)を設立、政府とMEJが二人三脚で相手国の特性に適した施策のPDCAを開始しています。新興国などに向けた支援や、医療者・医療機関のコネクション、医療機器産業における世界市場の予測(図表1)や各国の医療ニーズなどを踏まえ、医療の国際展開へ向けた推進を政府と連携して実施するというのが具体的な活動内容です。①日本方式の医療・保険制度、医療の技術標準の新興国での採用促進(例えば、アセアン経済統合における医療制度構築支援など)、②日本の医療界の支援による個別の医療機関など、日本式医療センターの構築、運営支援―などを行っていきます。
14年11月にミャンマーで行われた日アセアン首脳会議において、安倍首相は日本がアセアンにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を重視し、「日・アセアン健康イニシアティブ」として、健康増進、病気の予防および医療水準の向上に向けて5年間で8000人の人材育成を目指したい旨を述べ、アセアン側からもこれを支持する発言が得られました。このイニシアティブには人材育成のほか、①日本の経験・知見を動員して、「健康寿命先進地域実現」に向けたアセアンの努力を支援、②「日・ASEAN健康フォーラム」を開催し、日・アセアンの対話を推進していくことなどが記されています。また、協力項目として、①健康的な生活習慣の促進②早期発見・予防医療の推進、③多くの人が医療サービスを受けられる環境整備を行い、相手国のニーズを踏まえ、個別に協議した上で具体策を実施していきます。

 

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唐木 医療の国際展開に向けて、日本政府も近年積極的に途上国の保健省と協力関係を新たに樹立すべく努めています。
協力テーマにあるのは、①日本の先端医療の技術移転、優秀な医療機器や医薬品についての紹介、相手国政府調達における官民一体の日本製品のトップセールス、②国民皆保険を実現した日本の公的医療保険制度についての経験移転(相手国に向けた導入促進)、③医薬品や医療機器の開発から承認に至るプロセスについて、相互理解の促進(日本の厚生労働省/独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相手国の食品医薬品承認局(FDA)などの規制当局との意見交換。2013年10月にはタイFDAとPMDAでシンポジウムを開催)で、相手国政府における日本で承認を受けた製品の審査迅速化を目指しています。
また、在タイ日本国大使館は厚生労働省、経済産業省、JICA、JETROなどと連携し、「日本再興戦略」に基づく医療の国際展開を推進しています。日本の医療機器の普及には、現地の医療関係者の理解と習熟が不可欠であり、研修機会の提供とセットにしながら、日本製医療機器の良さを浸透させていく取り組みを支援しています。高齢化や、近年
の生活習慣の変化に伴う生活習慣病が課題となっているタイでは「日本式医療トレーニング拠点 in タイ」を進めています( 表1)。医療水準が高くメコン地域の中心であるタイのティーチングホスピタルに医療技術を普及させることで、タイを通じメコン地域全体に生活習慣病に対する日本の医療技術、医療製品の浸透を図っています。現地の医師を日本に受け入れての研修や、日本の専門医を派遣した技術指導など技術移転も重要な活動の一つです。

 

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次ページ:―途上国で日本の技術支援、普及を長年行ってきたJICAによる民間連携事業とは。

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