ArayZオリジナル特集

タイ進出製造業の新たな展開 医療機器業界参入のヒント

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―途上国で日本の技術支援、普及を長年行ってきたJICAによる民間連携事業とは。

木下 大企業・中小企業とも応募可能な「開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業」と、中小企業を対象とした海外展開支援スキームがあり、後者には①中小企業連携促進基礎調査、②案件化調査、③普及・実証事業があります。これらの前提としてあるのは、開発途上国、日本企業、ODAがWin‐Win‐Winとなる関係構築です。
途上国の経済成長と、持続的な社会発展・貧困削減における民間企業の役割は非常に重要であり、JICAは2008年の民間連携室設立以降、BOP(Base of the Pyramid )ビジネス連携促進、PPPインフラ事業に関する調査、中小企業海外展開支援などの事業を開始し、途上国開発に有効な日本の民間企業の技術との連携強化に取り組んでいます。
また、日本政府は「日本再興戦略」、「インフラシステム輸出戦略」、「質の高いインフラパートナーシップ」、「健康・医療戦略」などを発表し、日本の企業の積極的な国際展開を促進するために省庁の枠を超えた、オールジャパンとしての取り組みを打ち出しています。
ODAの実施機関であるJICAは、長年の途上国支援の経験を活かしながら民間企業の技術や事業経験などの新興国への活用方法を検討していくこと、さらには官民一体となり民間企業の技術力や質の高いサービスへの理解を相手国政府関係者などに促していく役割を果たしていくことが求められています。
こうした中、さまざまな分野の民間企業などとの連携を通じて、民間企業の優れた技術や事業経験などを途上国の開発課題解決に活用するために、冒頭の民間技術普及促進事業や中小企業海外展開支援を実施しています。
民間連携事業の期待される成果として、①日本の民間企業と新興国政府関係者の間の人的ネットワーク形成、②新興国事業やODA事業での、民間企業の製品・技術・ノウハウ・システムなどの活用促進、③民間企業の海外事業展開の促進、④以上を通じた、新興国の人々の生活の質向上―があります。
また、各事業スキームによって多少の違いはありますが、日本での受け入れ活動として、日本の関連制度の講義や民間企業の製品・技術・システムなどの運用現場視察および技術指導が挙げられます。
途上国での現地活動としては、民間企業の製品・技術・システムなどに係るセミナー、および技術指導や製品の理解促進を目的とした実証活動などがあります。

―中小規模の日本企業がタイの医療機器業界へ参入するには体力が必要であると思われますが、公的機関ではどのような進出サポートが受けられるでしょうか。

梅北 現在、タイには約1000の公立病院と約400の私立病院があり、多くの私立病院では国際機能評価機関であるJCI(Joint Commissioni on International)の認証を取得しています。タイの病院はアジアや中東諸国出身者のメディカルツーリズムを積極的に推進しており、近年では周辺国にも病院を展開するなど私立病院を中心に積極的な動きを見せています。
タイの医療機器の許認可を担っているのは、保健省食品および薬品管理委員会(FDA)です。
医療機器は3つのカテゴリーに分けられ、手術用手袋や単回使用用注射器などの「ライセンス」、理学療法機器やアルコール検出器などの「届出」、ライセンス、届出以外の「一般」があり、区分ごとに製造・輸入許可の申請手続きが異なります。
JETROは日本企業の海外活動が円滑に進められるようさまざまなサポートを行っており、医療分野においては主に中小・中堅企業を対象に多様な医療ビジネス展開を支援しています。

タイでの日本式医療トレーニング事例

①がん早期発見・診断医養成
・日本製医療機器(内視鏡・X線診断装置など)を用いたがん診断の技術指導(厚労省)
日本側:名古屋大学
タイ側:タイ国立がんセンター
ミャンマーからもタイに招聘予定
②内視鏡外科医養成
・内視鏡外科手術に係る手技教育による現地医師養成(JICA)
日本側:オリンパス
タイ側:マヒドン大学シリラート病院・チュラロンコン大学病院・メコン外科トレーニングセンター活用による実証事業(経産省)
日本側:オリンパス
メコン地域の医療職種も研修対象
③日本式人工透析技術トレーニング
・日本式透析トレーニングセンター構築支援、技術普及促進(JICA)
日本側:メディキット・旭化成・川澄化学
タイ側:ラチャヴィティ病院・マヒドン大学シリラート病院
※ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアからもタイに招聘予定
・タイにおける臨床工学技士養成システムの確立(厚労省)
日本側:九州保健福祉大学
タイ側:タマサート大学・
キングモンクット工科大学

 

海外展開を検討するにあたって第一段階となる情報収集と機会確保の場として、医療サービスビジネスレポート、医療機器市場レポート、書籍出版(「世界の医療機器市場」など)の発行や、医療機器の展示会への出展支援のほか、貿易投資相談やミニ調査(代理店候補の調査など)なども行っています。そのほか、認証当局との交流機会提供や海外コーディネーターによる輸出支援、海外医師などの招聘、新興国への医療進出支援、高齢者サービス分野の取り組みなどを通して、日本の医療機器・サービスの海外展開を推進しています。
特に我が国の中小企業にとって、医療機器分野の海外展開はハードルが高い分野であると思うのですが、海外展開は日本の医療機器産業界の関心が高い取り組みでもあり、日本政府も積極的に医療機器の海外展開を支援していることから、開発、製造、販売などのマーケティング要素に対して戦略性をもってオールジャパンとして官民一体となって取り組ん
でいければと思っています。

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