ArayZオリジナル特集

“中進国の罠”からの脱却を目指すタイ 2016年アジアビジネスの中心になるのはどこか

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AEC・経済回廊で繋がるアセアン戦略

〝陸のアセアン〞とも表現されるGMS(大メコン圏)には、中国南部を含めると2億人を大幅に超える人々が生活をしています。近年の各種経済回廊の整備により、この地域の陸路による連結性は大きく改善。特に、日系企業にとって重要と考えられるのは、ベトナムのダナン、ラオスのサワンナケット、タイのムクダハン、そしてメーソートを通り、ミャンマーのミャワディーからヤンゴンを繋ぐ東西経済回廊と、ベトナムのホーチミンからカンボジアのプノンペン、そしてタイのバンコクからカンチャナブリーを繋ぎ、ミャンマーのダウェーへと抜ける南部経済回廊であり、まさに、メコン圏内を結ぶ血管が整備されたということになります。今年7月には日本、ミャンマー、タイの3ヵ国間で、ダウェー開発の協力に関する覚書が締結されるなど、東南アジア西側のゲートウェイとなるダウェー深海港が完成すれば、さらに西側のインド、中東、アフリカまでを繋ぐ、日系企業の摺り合わせ型モノづくりの大動脈となる可能性を秘めています。
タイを中心とするメコン地域では、日系企業を中心に多くの海外企業が進出することで、企業主導のサプライチェーンが形成されてきました。こうした発展経路は、タイにおける自動車販売台数が増加すれば、カンボジアやベトナムの下請けサプライヤーの売上にも波及するというように、国をまたいだ産業集積間の結びつきを正の相関関係として実現可能にしました。こうして企業主導で形成されてきたメコン域内での衛星拠点とそれを結ぶサプライチェーンの形成は、協調型の互恵的発展を志向する肥沃な土壌を育み、各種経済回廊の整備と制度的連結性の高まりによって、域内衛星拠点の戦略的なネットワーク化(タイ+1)によって実現される果実の実りを、より豊かなものにするでしょう。
このように、企業主導(market driven)のサプライチェーンの地域的な拡がりは、政策主導(policy driven)な概念とはその性質を異にしていることに気がつきます。
個々の企業経営に重要となるのは、どの生産ブロックを分散立地させるのかというフラグメンテーションの効果を検討することに加え、ある生産ブロックと分散立地した生産ブロックの間を結ぶ(サービスリンク)活動にかかわる費用(サービスリンクコスト)を評価していくことです。つまり、企業は戦略の目的や立地の条件に応じて生産ブロックを断片化し、バリューチェーンを再編成していく際、サービスリンクコストを含めた総費用(ハード・ソフト両面を含む)を検討したうえで、いかなる生産ブロックを分散化し、どのような活動を集約化していくのかという戦略的な意思決定をしていくことになります。
タイ+1 戦略のひとつの例として、「ブーメラン垂直分業型フラグメンテーション(国際分散立地)」(鈴木基義2015、80頁)が挙げられます。前工程はタイのマザー工場で行い、後工程のうち、ラオスの第2工場で労働集約的な加工と組立を行った後、最終工程をタイのマザー工場でもう一度戻す形態を指し、ブーメランに軌道が似ていることからこのように呼ばれています。簡単に言えば、すべてタイで製造した場合に総コストが100かかっていた製品を、ラオスで製造した場合、製造コストが30になり、サービスリンクコストが20、合計で総コストが50になるならラオスに移管するのが効率的だという話なのですが、これにはどの工程をラオスに移管すべきで、それは人手をかけるべき工程なのか、オートメーション化可能な工程なのか、またタイとラオスを行き来する越境活動から生じる時間的コストや事務手続きなどを含めたサービスリンクコストはどうなのかなど、さまざまな要素を考慮する必要があります(図表3)。

 

arayz dec 2015 tokushu

 

また、サプライチェーンというと鎖のように一直線に繋がったものをイメージしがちですが、チェーンはひとつの輪が切れると製造工程のすべてがストップしてしまいます。これを回避するため、サプライチェーンをネット状(網の目)に展開しておくことで、天災や政治的な混乱が発生した際にも、より危機に強い生産ネットワークを構築することができのです。

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