ArayZオリジナル特集

AECで何が変わる!? ASEAN物流網の課題と展望

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 〝AECブループリント2025〞への期待

AECブループリント2025において、物品貿易の分野では〝競争力があり、効率的でシームレスな物品の域内移動を実現すべく、通関およびそのほかの制度上の貿易障壁の撤廃に継続的に取り組む〞との方針が示された。
「〝戦略的手段〞として提示された具体的措置には、非関税措置の削減や基準・認証制度の調和などの項目に重点が置かれました。2015年までのAECブループリントで関税撤廃がほぼ実現できた一方、非関税措置や基準・認証分野に関する統合措置においてはまだ多くの課題が残されています。その実態を反映したものといえるでしょう」。
具体的な措置の第1にあるのが、ATIGAの強化だ。既存のASEAN+1自由貿易地域(FTA)の改正作業や、交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を意識しつつ、①ASEANの中心性(ASEANセントラリティー)確立、②通達、そのほかのプロセス強化、③物品の域内移動自由化実現のための貿易障壁のさらなる削減―などに取り組む。
第2にASEAN加盟国が採用する原産地規則を簡素化し、よりビジネスフレンドリーかつ貿易促進的なものとして、域内貿易の拡大および中小企業の域内リンゲージの拡大、深化を目指す。また、原産性審査のプロセスの合理化、簡素化を促進する。
第3にASEAN加盟国によるWTO貿易円滑化協定(ATF)のスムーズな運用のみだけでなく、この協定をASEAN域内の貿易円滑化措置に反映させ、国際規格に近づけることを目指す。貿易円滑化の推進と域内の迅速な物品移動の保証を目的に、官民合同の貿易円滑化共同協議会(ATF-JCC : ASEAN Trade Facilitation Joint Consultative Committee)がすでに設立されており、次の措置に重点を置き、域内貿易円滑化を推進していく。

●全加盟国によるナショナルシングルウィンドウ(NSW(※3、21頁))の全面導入およびASEANシングルウィンドウ(ASW)プロジェクトの対象範囲拡大(対象書類、各国内関係機関)
●ASEANトレードレポジトリ(ATR 、域内貿易関連情報のウェブ版データベース)およびナショナルトレードレポジトリ(NTR(※4、21頁))の効果的運用のための協力、民間企業のための透明性、確実性の向上
●通関手続きをはじめとする輸出入関連手続き、規則、書類の簡素化・合理化
●認定事業者制度(AEO)、原産地証明書の自己証明制度などの貿易円滑化に関するASEAN関連イニシアチブの運用強化
●効果的かつ効率的な貿易円滑化措置の導入に向けた各種プロセスの改善、制度改正、インフラ開発などに関する官民協力の強化
●非関税措置に関する取り組み:非関税障壁(NTB)の完全撤廃に向けた取り組み加速、基準認証分野における強制規格の同等化、基準の統一化、国際規格との整合性および相互承認、輸出入に関する手続き簡素化、輸入許可、ライセンス、証明制度の削減など

非関税措置に関連した具体的な取り組みについては次のとおり。

●クオータ(割り当て)やそのほかの数量規定など、保護貿易的な非関税措置(NTM)に関する厳格な判定基準の導入および撤廃期限の検討
●国内規制・慣行の運用に際して〝良き規制慣行( Good Regulatory Practice:GRP)〞の導入とそれに伴うNTM削減にかかるコンプライアンスコストの削減
●民間部門との調整・協力の強化、民間企業の立場から不要な非関税措置の明示、優先分野の特定および規制・手続き上の負担の軽減
● 分野・業種別での取り組みやバリューチェーンアプローチなど、NTM削減に取り組む新たな手法の検討基準・認証分野における具体的な取り組みは次のとおり。
●AECブループリントに定められたイニシアチブの完了および進化
●効果的かつ効率的な適合性評価の仕組みを導入するための技術面でのキャパシティーおよびインフラの向上を目指した国・地域レベルでの強調プログラムの実施
●各国特有の措置に関する情報共有および透明性向上のための効果的手段の導入
●基準認証の優先統合分野を拡大
●基準・認証に関する制度、規則、手続きを準備段階から導入、運用に至るまでのGRPの採用
● 官民協力の推進、民間部門による基準・認証の設計、監視および評価への貢献ならびに最新の基準・認証情報のアップデート
●ASEAN+1FTAならびに将来的な経済連携・FTAにおける〝貿易の技術的障害(TBT)〞章の適切な運用を図るためのダイアログパートナーとの協力強化

なお、AECブループリント2025における〝サービス貿易〞の分野では、サービス貿易協定の交渉加速と運用を目指し、①ASEAN域内におけるサービス分野の拡大・進化を図り、②グローバルサプライチェーンの中に結合させ、③ASEAN加盟国のサービス産業の競争力を強化し、④サービス産業の強化を工業の発展、イノベーション、産業効率化につなげること、そして、サービス産業による経済発展・成長への貢献を最大化させることが目標に掲げられている。
「AECブループリント2025上の措置の実施、運用状況はAECカウンシルによって管轄され、最短で3年毎に見直しが行われます。2016〜20年の期間の中間レビュー、21〜25年の最終評価を通じて、主な措置の達成状況に関する進捗報告や影響の評価、残された課題などが公表される予定となっています。AECブループリント2025では、15年までの既存のブループリントの反省から民間企業の参画を一層促し、企業が抱える課題・問題を適切に聴取、措置の実施・運用に反映させる仕組みを目指します。
今後、公表されるアクションプランで、こうした方向性が実行力を伴って機能することが期待されています」。

原産地証明制度導入におけるメリットと課題

FTA利用手続き簡素化への取り組みとして、原産性の自己証明制度がある。ASEANにおいては、第3者よりフォームDの発給を受ける代わりに、輸出者自身がインボイスなどで原産性を申告し、輸入側でAFTA特恵税率の適用を認める。
制度導入のメリットとしては、①原産地証明書発給までの待機時間の短縮、②同発給を待てない緊急貨物(航空貨物など)に対するFTA利用の向上、③手続きにかかるマンパワーおよびコストの削減―などが挙げられる。
認定輸出者自己証明制度には、現在、参加国の異なる2種類のパイロットプロジェクトがが存在している(図表7)。

ARAYZ FEB 2016

ASEANでは2016年中の統一制度導入を目指しているが、第2パイロットプロジェクトでは、利用可能企業の間口が狭く、手続き面での制約も多い。
第1パイロットプロジェクトは10年8月にブルネイ、マレーシア、シンガポールの3ヵ国で覚書に署名、同年11月から運用が開始され、遅れてタイ、カンボジア、ミャンマーも参加している。第1パイロットプロジェクトへの参加を見送ったラオス、インドネシア、フィリピンで、12年8月にルールの異なる第2パイロットプロジェクトとして始動する覚書に署名。14年1月から発効している。タイ、ベトナムも後に参加している。

次ページ:残された課題〝非関税障壁・措置〞

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