ArayZオリジナル特集

タイ 統計データから読み解く 経済情勢

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求められる政策の今後の方向性とは?

海外からの直接投資は、それが国内の設備投資や生産、輸出、雇用などを誘発することで経済成長を促進するとともに、海外からの優れた技術や経営ノウハウが移転されることで生産性の向上をもたらします。
海外からの直接投資の動向をBOIへの申請金額で見てみると、2015年は2014年の約10分の1程度の水準まで落ち込んでいます。こうした大幅な落ち込みの背景には、2015年1月から導入されたBOIの新投資奨励政策の影響があると思われますが、それ以外にも海外の企業にとって他の周辺国と比べて相対的にタイへの投資魅力や期待収益率が落ちてきている可能性があります(図5)。

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(備考)BOI統計より作成

今年1月〜4月までのBOIへの申請 金額を見ると、前年同期を上回るペースで推移していますが、2014年との比較では依然として低調なペースであることがわかります(図6)。

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(備考)BOI 統計より作成。毎月の合計を積み上げた累積金額。

他方で、申請金額を業種別に見てみると、「サービス、インフラ」の伸びが顕著であり、今年4月までの累計ですでに昨年1年間の金額を上回る水準にまで達しています(図7)。

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さらに、新投資奨励政策で指定されているターゲット分野への申請金額は、今年4月までの累計で前年を大きく上回るペースで推移しています。中でも「ロジスティクス」や「科学、技術、 イノベーション」といった分野の伸びが顕著です。こうしてみると、タイへの直接投資は、申請金額こそ2015年に大きく落ち込みましたが、その中身をみると「国の競争力向上のための研究開発促進やイノベーションの創造、サービス業等の付加価値の 向上に資する投資を促進すること」とした新投資奨励政策の基本方針に沿った動きになっているとも言えます。
いずれにせよ、海外からの直接投資を呼び込むことはタイ経済の競争力強化に必要不可欠であり、政府としても昨年8月の内閣改造以降、相次ぐ投資奨励策の拡充を打ち出しています。今後はこうした政策がどの程度の効果を発揮していくかを見極めていく必要があります。
最後に、タイ経済の中長期的な発展を占う上で、必要となるであろう政策の方向性について考えてみたいと思います。
経済学の枠組みで考えると、経済が成長するためには、①労働投入を増やす、②資本投入を増やす、③全要素生産性を引 き上げる―の3つの方法しかありません。
①については、タイは今後急速に少子高齢化が進むと予測されていますから、それを放置しておくと労働供給の減少につながる恐れがあります。女性や高齢者の労働参加率を一層高めるとともに、外国人労働力の活用を進めていく必要があります。
②については、いかにして企業の前向きな投資を引き出すかという視点が重要です。その意味では、法人税を恒久的に20%に引き下げるという政策は望ましいものです。自国の資本だけでなく外国資本を呼び込むという政策も重要となります。
③については、いわゆる「残差」と呼ばれるものですが、①と②では説明できない要素であり、端的に言えば「イノベーション」という言葉に置き換えることができます。  「イノベーション」にはさまざまなものが含まれます。新しい商品やサービスを生み出す「プロダクトイノベーション」、デザインやパッケージ、販売方法を変える「マーケティングイノベーション」、ビジネス慣行や職場の組織を見直す「組織イノベーション」、 仕事のやり方を変える「プロセスイノベーション」などです。イノベーションの担い手は、 企業だけでなく、社会的課題に取り組む非営利部門や公的部門も含まれます。この「イノベーション」を生み出しやすい制度や環境を整備するという視点が重要だと思います。その際のポイントは、人、モノ、カネがなるべく自由に活躍・活動できる場や選択肢をより多く確保するということだと思います。イノベーションの担い手は「人」です。教育などを通じた人への投資が重要となることは言うまでもありません。また、新たなイノベーションを生み出すための研究開発も必要不可欠です。研究開発は不確実性を伴うものである一方、外部性を有するケースが多いことから、そこに政府による支援の必要性が生じます。
人、モノ、カネがなるべく自由に活躍・活動できるようにするという点では、社会的共通資本となるインフラを整備するとともに、世界や近隣諸国とのコネクティビティを強化していくことが重要です。現在タイ政府が進めている総合的なインフラ投資計画を着実に実行に移していくことはもちろんのこと、AECの取組を進化、加速させていくとともに、現在検討中のTPPへの参加ということも選択肢の一つになると思います。また、より多くの人が活躍するためには、所得間格差、企業間格差、地域間格差といった問題にも目配りが必要です。ADBの報告書などを見ると、特に通信、メディア、金融などのサービス産業における外国投資規制の存在が国内の競争を阻害していることが指摘されています。もちろん、あらゆる産業に競争原理を持ち込めば万事うまくいくわけではありませんが、競争が消費者に新たな選択肢をもたらすというメリットは指摘できるかと思います。
タイには世界中から年間約3000万人もの人が観光で訪れています。世界中から多くの人を引きつける魅力があることを示す証左だと思います。タイにはまだまだ大きなポテンシャルがあるものと思っています。

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(備考)1.鉱工業生産指数と設備稼働率指数はOffice of Industrial Economics、CPIはMinistry of Commerce、株価はThe Stock Exchange of Thailand、 それ以外はBank of Thailandのデータに基づき当館作成。
2.下段の括弧内は前年比、単位:%
3. 「指標の変化」は、単月(16年4月→16年5月)の指標の変化の方向を示す。「基調の変化」は、数ヶ月単位でみたトレンドの変化の方向を示す。
4. 「↗」は改善、「→」は変化なし、「↘」は悪化を示す。ただし、物価と為替については変化の方向のみを示しており、景気への影響を示しているわけではない。

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