ArayZオリジナル特集

生産構造に変化が見えてきた タイとアジアの電気・電子産業事情

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日系プリンターメーカーが集積するフィリピン

電気・電子業界におけるチャイナ+1では、ベトナム以外にフィリピンも注目されています。2015年の投資件数は8件、うち4件がEUからで、電子機器・部品関連の「販売・マーケティング・サポート」で2件、半導体関連の「設計・開発・検査」で2件となっています。「製造」関連でいえば3件のうち2件が日本からの投資で、液晶ディスプレーモジュール、電子部品関連での投資となっています(図表3,4)。

arayz tokushu Oct2016
(注1)本欄には「Design, Development and Testing(設計・開発・検査)」の分類を集計しているが、シンガポール、ベトナムには「Research & Development(研究・開発)」の分類が 1件ずつ含まれる。
(注2)「その他」には、「Maintenance & Servicing(韓国1件)」「Recycling(シンガポール2件)」「Customer Contact Centre(マレーシア1件)」「Education & Training(インド1件)」「ICT & Internet Infrastructure(インド1件)」が含まれる。
【出典:Jetro、fDi Markets(Financial Times)を基に作成

日本の電気機械器具における11年から15年(1~9月)の対外直接投資の合計ベースでみると、ASEAN域内ではタイに次いでフィリピンに投資が集まっています(図表2)。11年にエプソンがインクジェットプリンターとプロジェクターの新工場を設立して以来、ブラザー(12年)、キヤノン(13年)など日系メーカーによる投資がフィリピンに相次ぎました。14年末、エプソンはさらに拡張投資を行うことを発表し、17年春の稼働を目指して16年度までに総額約123億円を投資する予定です。これら大手メーカーの関連部品メーカーも進出が続いています。フィリピンは豊富な人材供給と、経済特区庁(PEZA)が管轄する経済特区による手厚い恩典も魅力で最終財より集積回路、半導体、ハードディスクドライブ(HDD)などの部品に競争力があります。

製造拠点から「3つの役割」へと移行するシンガポール

直近5年でASEANにおける電気・電子産業の投資をもっとも集めているのはシンガポールです(図表1,3,4)。ASEAN向け382件中99件と、全体の約25%の投資がシンガポールに集まったことになります。2015年(計21件)だけを見ると、アメリカ7件、EU6件と全体の60%を欧米諸国が占めており、欧米諸国による投資は中国、インドに加え、ASEANにおいてはシンガポールに集中していることがわかります。
投資の機能別に見ると製造関連は21件中3件のみと少なく、「販売・マーケティング・サポート」が10件、「設計・開発・検査」と「統括拠点」がそれぞれ2件ずつとなっています。シンガポールは製造拠点がなくても電気・電子部品の販売拠点が集まるため、部品調達の利便性が高く、売買取引だけをシンガポールで行い、物流はシンガポールを通らないオフシュア貿易も選ばれていると聞いています。
このように、シンガポールは「取引・物流ハブ」の役割を強めてきているだけでなく、昨今はさらに2つの役割を担ってきています。「地域統括拠点」と「R&D拠点」の立地先としての役割です。経済開発庁(EDB)の電気・電子産業に関する資料「電気・電子産業・ファクトシート」によれば、既にマイクロン・テクノロジー、インフィニオン(ドイツ)、STマイクロエレクトロニクス(スイス)などの世界的な半導体関連企業が地域統括拠点を設置しており、日系でもエンプラスが13年に半導体機器事業の本社機能を移管した事例などがあります。また、R&D拠点については、ファブレス半導体メーカーのメデアテック(台湾)が20年までに2億5000万シンガポール・ドル(約200億円)を投じてR&D拠点を拡充すると発表しています。HDDを製造するシーゲート・テクノロジー(アメリカ)も1億シンガポール・ドルを投じたR&D拠点を15年7月に開設。ファブレス半導体メーカーのリアルテック(台湾)は14年7月、地域統括拠点とR&D拠点を設置することを発表しました。
シンガポール科学技術研究庁によると、14年の民間企業のR&D投資額は前年比16%増の52億シンガポール・ドルとなり、「ストレーツ・タイムズ」紙はうち44%に当たる23億シンガポール・ドルを電気・電子企業(主に半導体関連)の投資が占めたと報じました。同国政府もR&D誘致には積極的で、シンガポールの動きは電気・電子産業の新たな潮流としても注目されています。

太陽光発電関連の投資が集まるマレーシア

シンガポール、ベトナムに次いで電気・電子産業の投資が多いのがマレーシアで、日系企業、欧米企業を中心に一定の集積があります。インフラの充実を筆頭に、ビジネス環境の良さからも、古くからマレーシアに複数工場を抱える日系電機メーカーにはASEANを中心とした域内の統括拠点を同国に設置しているところが多い一方で、事業構造の組み換えや他国拠点への再編・集約により、近年ではマレーシアから撤退する企業の動きもみられます。このことは日系企業だけに限らず、韓国のサムスン電子は2016年3月、事業効率化の一環としてテレビ用ディスプレーの製造拠点を閉鎖すると発表しています。
こうした中、マレーシアでは政府が環境政策に力を入れていることもあり、10年前後から太陽光関連の投資がみられるようになってきました。北部ケダ州、ペナン州を中心に投資が行われており、15年には、中国の太陽光発電製品メーカーであるジンコソーラーホールディング(晶科能源)が、ペナン州で太陽光セルとモジュール製造施設を建設すると発表しました。

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