ArayZオリジナル特集

景気回復も、なぜ”実感に乏しい”のか?

今後の見通し、展望について

最後に、〝実感ある〞景気回復のために必要なプロセスについて触れたいと思います。

【第1段階】政府の経済政策などが呼び水となり、企業が稼ぐチカラを取り戻すプロセス

上述のとおり、タイ経済の現状を踏まえた政府の政策メニューは出揃いつつあると見ています。今後注目すべきは、これらの政策が着実に実行に移されていく中で、政策の初期の狙いや効果が発揮されるかどうかという点です。
企業の活力は経済成長の原動力であり、企業の稼ぐチカラが弱まっている現状においては、まずは個々の企業が自助努力により利益を上げる取組を行うことが必要不可欠です。その企業の取組をよりスムーズに進めるには、政府が企業を取り巻く環境を整備することが求められます。当面は、景気刺激策としての効果を併せ持つインフラ投資などが起点となって新たな需要を生み出し、それに対応するために企業が設備の稼働率を上げ、生産を増やしていくなかで企業収益を改善させていく、というプロセスが起動することが鍵となるでしょう。

世界経済の不確実性が残るなかで、外需に対して過度な期待をするべきではありません。しかし、今後も世界経済が緩やかな回復を続けると前提するならば、数量ベースでの輸出の伸びも期待できるはずです。
このように、政府の経済政策などが呼び水となり、数量ベースで輸出や生産が伸び、企業がしっかりと利益を上げていく中で、新規の設備投資などを含む「新たなこと」にチャレンジできる環境が整ってくることが、第1段階として求められます。

【第2段階】政府に頼らず、企業と家計の好循環による自律的な経済成長が実現するプロセス

次のステップは、民間部門が主導となり、自律的な経済成長を確立するプロセスです。すなわち、政府の政策に頼ることなく、企業収益の拡大が賃金上昇や雇用拡大という形で家計に還元され、それが消費を促し、さらなる企業収益の拡大につながる―という好循環を生み出すことです。
これまで述べてきたとおり、今後注目すべきは経済成長率自体よりも、景気回復のメカニズムが起動し、持続するかどうかという点にあると思います。現時点で、景気の現状は未だ第1段階の途上にあるものと考えられますが、現在働いている景気回復のモメンタムが持続する中で、徐々に多くの人が景気回復を実感できるようになることを期待したいと思います。

(※1)国民経済計算は、国の経済の全体像を国際比較可能な形で体系的に記録することを目的に、国連の定める国際基準に準拠しつつ作成されている。

(※2)SNA統計上では、付加価値総額の総額から雇用者報酬、固定資本減耗および純間接税を差し引いたものが営業余剰とされ、付加価値総額から他の3項目を差し引いた「残差」として求められる。営業余剰は企業会計上の営業利益に近い概念と言える。

(※3)物価関連の指標としては、消費者物価指数が有名であるが、消費者物価は、消費者が実際に購入する段階での商品の小売価格(物価)の変動を示す、いわば「川下」段階の物価指標であるのに対して、生産者物価は企業間で取引するモノの価格という、いわば「川上」段階の物価指標と言える。そのため、生産者物価の動きは消費者物価の動きに先行する傾向がある。

(※4)国際的にみるとタイの労働生産性は決して高いわけではないことから、今後は賃金の上昇が労働生産性の向上につながり、それがさらなる賃金の上昇につながるという形で、賃金と生産性の双方がともに上昇していくことが自然であろう。

(※5)2016年に公表されたアジア開発銀行(ADB)のレポートによると、タイの潜在成長率は2010〜14年平均で3.16%。

(※6)直訳:「賢い支出」。経済学者・ケインズの言葉。財政の「質の改善」を図り、現下の課題に対応するため、歳出の中身を大胆に入れ替え、政策効果が乏しい歳出は徹底して削減し、政策効果の高い歳出に転換すること。その結果として、民間需要を喚起する効果とともに、潜在成長率を高める効果を有するとされる。

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