【連載】藪本 雄登氏がアドバイス! 新興メコンの最新法務事情 Vol.5

yabumoto

◆カンボジア編 カンボジアの労働仲裁事例

<2013年260号事件・事案概要>
A社は靴製造業を営む会社であり、毎週平日および土曜日に勤務した従業員に対し、昼食に代わる食事手当として1,500リエルを支払っていました。2013年5月からは、日曜日・祝日に勤務した従業員(以下、「本件従業員」)に対しても、昼食に代わる食事手当1,500リエルの支払いを開始しました。
しかし、A社が、同年10月の支払いを最後に本件従業員に対する昼食に代わる食事手当の支払いを停止したため、労働組合は労働委員会を通じ、A社に対し、本件従業員に対する13年11月以降の昼食に代わる食事手当の支払い(請求1)、および全従業員に対する昼食に代わる食事手当の500リエルの増額(総額2,000リエル)を求めました(請求2)。

<当事者の主張内容>
①請求1について
【労働組合の主張】A社がこの支払いを停止するに当たっては、A社から従業員に対する事前通知も従業員との間の協議も合意もなかったのであるから、A社は本件従業員に対して同年11月以降も引き続き、同様の支払いを行わなければならない。
【A社の主張】A社の同社従業員に対する1,500リエルの支払いは労働組合との合意に基づくものであり、その合意内容は、平日および土曜日に勤務する従業員に対するものである。13年5月から同年10月までの本件従業員に対する支払いは、上記合意が本件従業員に対しても会計上誤って適用されてしまった結果であり、本来、支払われるべきものではない。また、今回の支払いの停止に当たり、A社は労働組合の代表者に対して通知を行った。
②請求2について
【労働組合の主張】物価が上がっており、1,500リエルでは昼食に栄養があるものを食べることができないため、金額を上げてほしい。
【A社の主張】14年初旬にはこれに応じる予定である。
<仲裁判断内容>
労働仲裁委員会は、「A社は本件労働者に対し、13年5月から同年10月まで行われてきた1,500リエルの食事手当の支払いを継続せよ(請求1)。また、500リエル増額して2,000リエル支払えとの
請求は却下する(請求2)」との仲裁判断を下しました。

<結論>
請求1に関する争点は、労使間で明確な合意はなされていないが、労使間において一定期間継続してある行為が行われてきた場合の、それ以降の取り扱い(本件について見れば、A社が13年以降も引き続き、本件従業員に対して昼食に代わる食事手当を支払い続けなければならないかという点)についてです。
この点、労働仲裁委員会は、労使間に書面による明確な合意がなかったとしても、継続的かつ定期的な行為、即ち「過去の習慣」がある場合には黙示の合意として効力を有するという趣旨の判断をしました。
請求2における争点は、そもそもA社が従業員に対して昼食に代わる食事手当を支払う必要があるか、という点およびその点に関する関連事項です。この点、同委員会は、労働法にも会社に対して労働者へは2,000リエルの昼食に代わる食事手当の支払いを義務付ける規定は存在せず、A社と労働組合との間にもそのような内容の労働協約も存在せず、本件当事者間においてもそのような内容の合意は存在せず、過去の実務においてもそのような例は存在しない、経済的価値に関する紛争であると判断しました。
経済的価値に関する紛争について、団体交渉によって締結された労働協約が全従業員を拘束するためには、当該労働組合に会社の従業員の半数が組合員として所属していなければならなりません。同委員会は、その場合の経済的価値に関する紛争に関する請求を却下するとの過去の判断に基づいて、本件組合についても所属する組合員数がA社従業員の半数に満たしていなかったために請求を却下するという判断を下しました。
なお、本仲裁判断にはこれまで「過去の習慣」が認められた例として、年次有給休暇の例、賃金計算方法の例、賞与の支払いの例、食事手当の例を挙げています。労働者との間で書面の約束や口約束がなかったとしても、定期的かつ継続的なやりとりがある場合には「過去の習慣」として認められ、定期的かつ継続的に行われた行為に関しては合意があったのと同じ効果が生じますので、ご注意下さい。
※今回ラオス編はお休みとなります。

Yabumoto

JBL Mekong代表・藪本 雄登
カンボジアで数年間の実務経験を有し、ラオス提携事務所を往復しながら、新興メコン法務全般に従事。新興メコン地域の法務に関する知識と実務経験をもとに、メコン地域への進出戦略の策定、進出時のリーガルフォロー、紛争発生時の対応などを執り行う。
【主な著書・執筆実績】
『カンボジアで事業を興す』(キョーハンブックス、2014年6月)
『カンボジア進出・展開・撤退の実務』(同文舘出版、2014年4月)
『カンボジア会社設立マニュアル』(日系公的機関より受託)
『カンボジア労務マニュアル 第2改訂版』(日系公的機関より受託)
『ラオス労働法』(日系公的機関より受託)

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