【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第37回 コロナ禍でも健闘する上海汽車(MG)

新型コロナウイルスの影響で軒並み自動車市場が落ち込む中で、2013年末にタイ進出した上海汽車(MG)が前年比増を維持している。その要因を考察した。

積極果敢な新モデル発売

MGの20年1月~10月の販売台数は前年比1.1%増の21,400台に達し、シェアは3.5%と19年から1%近く上昇した。

要因としてまず挙げられるのは、果敢な新モデル攻勢である。年に最低3車種の新車を投入する方針であり、投入ペースが速いことが販売増に繋がっている。

19年8月に同ブランド初の1トンピックアップトラック「MG Extender」、9月にSUV Cセグメント(1,500ccクラス)の「MG・HS」を投入。20年10月には同ブランド初の国産PHEV「MG HS PHEV」、12月には業界で初めて100万バーツを切るステーションワゴン型EV「MG EP」を発表した。

ユニークなのは複数のモデルを販売した後、市場の反応を見ながら随時モデルや仕様を調整していくテストマーケティングな手法を取り入れている点であろう。

タイでは余り人気がないステーションワゴンに、なぜ100万バーツを切る「MG EP」を投入したのかという筆者の質問に対して、MG関係者は「新しい顧客層がこの価格帯にいるのか知りたかった」と答える。手堅く絞った車種を投入する日系メーカーとはアプローチが異なる。

外観と装備・機能で攻勢

次の要因として挙げられるのは、若者・女性などを主な顧客ターゲットに据えた「外観重視+満載な装備・機能路線」である。

17年の「MG ZS」以降、業界で初めて3つのコネクテッド機能、すなわちタイ語の音声認識、車両状態のリモート監視、10インチのタッチスクリーンによるインフォーテイメント(情報+娯楽)を持つ「i-Smart」を搭載し、新しいテクノロジーやライフスタイルに関心が強い若者に狙いを定めた。

また、SUVには他社より手頃な値段で特に外観重視のタイ人女性が気に入るようなサンルーフなど過剰とも言える機能を標準で備えた。あるディーラーの話では顧客の9割が外観を重視する女性であり、ピックアップの顧客も女性が多いという。

「投資先行型」のEV戦略

注目のEV戦略は、初期は収益性を重視しない「投資先行型」である。本国の中国が世界最大のEV市場であり、タイのEV完成車輸入税がゼロなこともあって他社より低価格で投入できる利点を最大限使い、EV市場で他社を先行している。

19年に発売したBセグメントのSUV「ZS EV」は価格が190万バーツということもあり、受注は約2,000台に達しEVで首位に立つ。ただし、タイでEVを購入するのは一戸建て住宅に充電器などを据え付けられる富裕層に限られるため、販売台数は想定以上に伸びていない。

それでも怯まずに先述の「MG EP」を投入。2万バーツ程の充電器を設置代込みで無料提供するという大胆なサービスで潜在市場を徹底的に掘り起こそうとしている。

MGとしては22年までにタイでシェア5位内を目指している。また、タイのBOI(投資委員会)がEVに対する投資優遇策を新たに発表したように、EVの普及は長期的に中国系メーカーにとって有利になる。

長らくタイ市場を独壇場としてきた日系メーカーにとっても、同じ戦略を取らない競合とどう向き合うのか真剣に検討する局面に入ったと言えよう。

寄稿者プロフィール
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  • 野村総合研究所タイ
    マネージング・ダイレクター田口 孝紀

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    シニアマネージャー 山本 肇

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経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

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