2020.09月号

新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略

Vol.6 アフターコロナに急展開する食品Eコマース【後編】

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ローランド・ベルガーが解説 ASEAN経営戦略

 東南アジア諸国連合(ASEAN)における様々な業界の旬なトピックを、ドイツ発のコンサルティング会社ローランド・ベルガーが経営戦略的な観点から解説する。今回は「アフターコロナに急展開する食品Eコマース」の後編。

新型コロナウイルスが猛威を振るい、外出自粛を余儀なくされた期間、世界各地で食品Eコマースが伸長した。外に出て食品を買うことができず、また外食も叶わない。だが、エンターテイメント等とは違い、「食」は生活に欠くことのできないものだ。どうにかして手に入れようとすれば、その手段にEコマースが挙がるのは必然だろう。

実際、東南アジアでもシンガポールのネットスーパーであるRed Martはこの期間中、食品Eコマース売上が急拡大。ある食品カテゴリーでは従来の10倍の売上に至ったという。食品は日々必要になるものであり、最も購買頻度の高い商材カテゴリーである。一度、Eコマースでの購買を体験し、その利便性に気付けばEコマース購買が定着していく可能性は高い。

今後、食品Eコマースが進展していくことを前提に、東南アジアでどのような拡大の可能性があるかを8月号から2回に渡って論じている。その可能性は次の4点である。

①ディストリビューター(中間流通事業者)によるEコマース展開
②B2B型食品Eコマースによる中間流通のディスラプション(創造的破壊)
③オンラインデリバリーの躍進
④食品D2Cの本格化

8月号では①と②に触れた。今回は③と④について論じたい(図表)。

図表 東南アジア食品Eコマース拡大の可能性

③オンラインデリバリーの躍進

3つ目の可能性は、買い物代行に代表されるオンラインデリバリーの席巻を挙げる。前提として、オンラインデリバリーは一般的なEコマースとはビジネスモデルが異なる。

Amazonや楽天は、多数の商店をオンライン上に集めたモール型サイトだ。一方、オンラインデリバリーでは、実在の小売店舗であるスーパーやコンビニまでは食品が実際に流通される。そこを拠点に消費者にデリバリーされるというモデルだ。

サプライチェーンの観点で両者は異なる形態であり、ゆえにオンラインデリバリーはEコマースと異なるビジネスと捉えられる。だが、消費者にとってみれば、ネット上で注文をして自宅まで届けてくれるという様式は変わらない。

そして、東南アジアではEコマースではなく、オンラインデリバリーが食品配達チャネルの標準になるという見方も強い。その背景には東南アジアで広く浸透した配車サービスの存在がある。東南アジアは配車サービスの車両(バイク含む)の地理的密度、並びに消費者当たりの台数が世界でも屈指の高い水準にある。密に張り巡らされた車両網によって、短時間でのデリバリーが可能になっている。

Eコマースにはこの短時間デリバリーは難しい。鮮度が重要で、かつ「今日の夕食の食材の注文」という使い方も踏まえると、オンラインデリバリーがEコマースよりも浸透していく可能性が高いというわけだ。

実際、GrabやGo-Jekは新型コロナウイルスによって配車サービスが細った今、オンラインデリバリーを収益の柱と考えている。また、配車サービスの事業者だけでなく、セブンイレブン等、小売自体もオンラインデリバリーに本格展開を見せ始めている。

④食品D2Cの本格化

食品Eコマース(オンラインデリバリー含む)の浸透率が大きく上がっていくと何が起こるだろうか。端的に言えば、食品メーカー側の流通戦略が変わるだろう。当たり前のことであるが、Eコマース化率が上がればメーカー側も流通戦略の中でEコマースをより重視するようになる。

リアル店舗に対する流通とEコマースでの流通の大きな違いの一つはディストリビューター(中間流通事業者)の必要性だ。リアルな小売店舗に卸す場合には、小売と強い関係性を持ち、物理的にも近くてフォローにすぐ飛んでいけるディストリビューターが重宝される。

だが、Eコマースの流通ではそのような役割は求められない。極端な話、食品の流通構造はシンプルに「メーカー→Eコマース→消費者」という、いわゆるD2C(Direct to Consumer)構造に帰着するのではないか。もちろん、D2Cになるとデリバリーは小ロット多配送となるため、物流効率は落ちる。

現在、食品D2Cとして世界でトレンドとなっているのが、健康食品等とカテゴリーが限られているのもその背景がある。だが、前述の通り、東南アジアには密に張られた配車サービスのドライバー網がある。ここがより進化し、小ロット多配送に対応できれば、食品D2Cはよりマス向けの一般食品にも展開されるだろう。仮にこのような流通構造が実現すれば、非常に影響の大きいビジネス変革となる。

食品Eコマースがもたらす周辺産業へのインパクト

最後のD2Cモデルで触れたが、食品Eコマースが進んでいけば、それは食品業界に留まらず多くの産業にとってインパクトがもたらされるはずだ。

まずは、小売の在り方は変わるだろう。オンラインデリバリーが普及するのであれば、実店舗はオンラインデリバリーの集荷拠点として効率的な店舗配置や店舗の仕様が期待されるようになる。

物流はより高度なレベルが求められる。より多くの配送先に対して、より短い時間でデリバリーするには、人的オペレーションの効率化では到底追い付かない。テレマティクス(車載器)を用いたデリバリープランの最適化、そして状況に応じた柔軟な修正指示をAI(人工知能)が自動で出す仕組みが必要になる。

また、小口配送の増加は、車両生産・販売の構成比にも影響をもたらす。都市部を小回りよく動けるピックアップトラックの需要がさらに高まるだろう(冷蔵冷凍機能付き)。だが、それでも東南アジアの入り組んだ小道を効率的に回るのには限界があるかもしれない。そうなると世界でも実証実験が進むドローン配送が、東南アジアで真っ先に完全実用化される可能性も否定できない。

当然ながら、これらには仮説の域を超えないものもある。だが、食品Eコマースは間違いなく東南アジアで伸長し、周辺産業にも影響をもたらすはずだ。この変化にうまく乗ることが、ニューノーマルにおける一つの成功要諦になるはずだ。

寄稿者プロフィール
  • 下村 健一 プロフィール写真
  • Roland Berger下村 健一

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのASEANリージョンに在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。

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