新たな視点で時代の動きを読み取る ASEAN経営戦略

GoTo(Gojek+Tokopedia)のインパクト

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

スーパーアプリ戦争に新局面

ゴジェック、グラブといった東南アジアの配車サービスは、今や「スーパーアプリ」と呼ばれるようになった。

配車のみならず、食料品、日用品の宅配、決済等、消費生活を多面的に捉える複数サービスを持つに至っている。

スーパーアプリと言えば、中国でアリババやテンセントが作り上げたエコシステムが有名だ。だが、東南アジアにおけるスーパーアプリは中国とは異なる進化の道筋を歩んでいる。  アリババはEコマース、テンセントはWeChatというコミュニケーションツールを軸にスーパーアプリ化したのに対し、ゴジェック、グラブは配車サービスを出自としている。彼らはこの個性を活かしたスーパーアプリ展開を行ってきた。

しかし、今年の5月にゴジェックとインドネシアEコマース最大手トコペディアの合併が決まったことで、東南アジアスーパーアプリ戦争は次の局面を迎えている。

オンラインリテールの全方位化

ゴジェックは今回の合併を「インドネシア史上最大の事業統合」と発表した(同社リリースより)

トコペディアとの合併を決めたゴジェック、彼らが目指すものは何か。それはオンラインリテールの全方位化だと考える。

オンラインリテールは、注文からデリバリーまでの納期で見れば二つのタイプに分かれる。  注文から商品到着までが数十分~当日の短納期はいわゆる「買い物代行」がカバーする。そして、1日~1週間程度の中納期のものは、従来的な意味合いの「Eコマース」が該当する。

それぞれのオンラインリテールでは購買される商品は異なってくる。  前者は、食材や日用品など低単価ながら日常生活に不可欠で「今すぐ欲しい」ものが中心だ。ゴジェックはGoMartというサービスでアルファマートやフードホールといったコンビニエンスストア、スーパーマーケットでの買い物代行を早くから展開していた。

後者のオンラインリテールは書籍、アパレル、雑貨、家電など扱う商品カテゴリーは多岐に渡るが、即時デリバリーのニーズは低い。比較的単価は高く、嗜好性の強い商品が多いと言えるだろう。

ゴジェックはトコペディアとの合併によって、後者の中納期タイプのオンラインリテールも合わせ持つことになった。

GoToの誕生がもたらす意義

短納期の買い物代行と中納期のEコマース、その双方のカバーはグラブもまだできていない。ゴジェックが先んじてこれを実現できた意義は次の三つの観点から大きい。

一つ目は、配車サービスのドライバーに対する仕事量が大きく拡大する点。

新領域へ軸足を移そうとも、ゴジェックにとって、ドライバーネットワークが重要アセットであることは変わりない。そして、そのドライバー集客に大きな影響を与えるのが仕事量だということは想像に難くないはずだ。

トコペディアに出店する商店の数は1100万店舗に及ぶ。この膨大な商店ネットワークが荷主になることで、ゴジェックはドライバーに対しての訴求力を大きく高めるだろう。

二つ目は、トコペディアのデリバリーをゴジェックのドライバーが担える点だ。一つ目の意義をトコペディアの視点で見たかたちである。

インドネシアで200万人のドライバーを持つゴジェックのデリバリー力は圧倒的だ。トコペディアはゴジェックのリソースを活用して、即日デリバリーの割合を高めるとしている。このことで、トコペディアはEコマース最大手としての立ち位置をより強固にするだろう。

三つ目は、得られる消費データの量的・質的拡大である。

スーパーアプリの肝は、多様なサービスを大規模展開することで得られるデータの活用だ。ゴジェックとトコペディアの合併によって、インドネシアの個人消費の3分の2が彼らによってカバーされるとも言われている。そこから得られる消費データ量が甚大であることは間違いない。

データ内容(質)の面でもゴジェック、トコペディアの相互補完性は高い。前述の通り、ゴジェックとトコペディアのオンラインリテールは商品傾向、並びに購買決定要因が異なる。同一ユーザーの消費動向をより多面的に分析することが可能になるのだ。

東南アジアリテールの変革

東南アジアのリテールは伝統的小売りが流通総額の7~8割を占める市場だ。

先進国における業界成熟のステージ論に則ると、伝統的小売りがコンビニやショッピングモールなどの近代的小売りに置き換わっていく。

もちろん東南アジアでも引き続きその動きは進んでいくだろう。だが、ゴジェックとトコペディアが創るプラットフォームはこの従来的な進化論とは別の方向へと東南アジアリテールを誘う。

世界的に見ても、買い物代行とEコマース双方のオンラインリテールをカバーする事業体は稀有だ。これまでどの国、どの地域でもなかったリテールの世界観へと東南アジアは進む可能性がある。

寄稿者プロフィール
  • 下村 健一 プロフィール写真
  • Roland Berger下村 健一

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのアジアジャパンデスク統括に在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。

\こちらも合わせて読みたい/

東南アジアにおけるキッチンOSの可能性

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop