カシコン銀行経済レポート

【連載】カシコン銀行によるタイ経済・月間レポート 2015年8月号

調整を迫られているタイのHDD産業

現在、タイは、世界における重要なハードディスク駆動装置(HDD)生産拠点の1つです。輸出数量を見ると、タイの2014年の世界市場におけるシェアは、約30.1%(約1億8090万台)となり、世界市場シェア約35.2%の中国に次ぐ第2位でした。
しかし、タイのHDD生産のほとんどは、パソコンやノートパソコン向けに重点を置いています。このことにより、タイのHDD部門は、スマートフォンやタブレットのような携帯機器の人気が高まっている消費者行動の変化に起因して、パソコンやノートパソコンの需要減少の影響を受けています。
タイのHDD輸出の衰退は、世界市場全体のHDD需要の減少を反映したもので、今後4年間で年平均2.1%減すると見通されています。エンタープライズ客向けHDDの需要増という推進力はあるものの、最も大きな市場であるコンピュータ向けHDDの需要は減少し続けています。
現在、事業経営は、これまで以上に複雑になっており、事業経営に利用するため、顧客と組織の両方における膨大なデータを必要とするようになっています。また、このようなデータにいつでもどこでも便利にアクセスできることが求められています。このため、多くの組織がインターネットを通じた情報通信技術の採用に目を向けており、これがクラウド・コンピューティングと呼ばれるものです。
このようなデータ・センターへの投資やクラウド・コンピューティング・サービスの提供の結果、大容量のデータ記録装置のニーズは成長を続けています。このことが、エンタープライズHDDの需要増加に反映されています。世界市場におけるエンタープライズHDDの需要は増加傾向にあり、2015年の約7230万台から、2018年は9310万台に増大し、成長率は年平均8.1%増に達することが見込まれています。
タイのコンピュータ向けHDDの生産と輸出を見ると、3.5インチHDDよりも2.5インチHDDの方が多くなっています。2.5インチ型は、ノートパソコンのデータ記憶の主要機器として使われていることが多いです。2014年のタイの2.5インチHDDの生産は、1億860万台で、国内で生産されたHDD全体の約60%になると推測します。一方で、3.5インチ型が使用されるエンタープライズHDDの生産割合は、タイにおける生産全体の30%を占めるに過ぎません。エンタープライズHDDの世界市場における需要がなお拡大している以上、タイはこうした需要に応えるため、3.5インチHDDの生産割合を増やす必要があると考えられます。
ストレージ機器市場における技術革新により、HDD技術は、軽量かつデータ・アクセスの高速性で優れているデバイスとして人気が高まっているソリッド・ステート・ドライブ(SSD)技術との競争にさらされています。SSDは、データの読み書きの速度や省電力面でHDDよりも優れていると認識されています。しかし、HDDのデータ記憶領域あたりの価格面を比較すると、同じデータ記憶領域では、SSDの方がHDDより約3ドル高くなっています。
また、HDDの記憶容量も継続して開発されています。現状では、HDDの最大容量は10テラバイトで、SSDのそれは4テラバイトに過ぎません。すなわち、HDDは、コンピュータ市場やポータブル電子機器の市場でシェアをSSDに奪われているものの、大容量化に向けた開発の動きを止めていません。例として、新型HDDには、圧縮したヘリウムガスを通常のHDDの空気と置き換える技術を使用したもの(ヘリウムHDD)があり、データ記憶領域を増やすことが可能となっています。この結果、将来的にHDDのデータ記憶領域を飛躍的に発展させる可能性があり、エンタープライズ市場でのHDDシェアを維持することができます。従って、HDDメーカーは、将来的に増加していく傾向にある企業の大容量ストレージ機器の需要を満たすため、こうした技術への投資も含め、研究開発を強化する必要があります。

arayz kasikorn

■タイ経済最新情報 8月号 2015/8/31 (No.114)
監修:カシコンリサーチセンター
マクロ経済・投資調査部取締役副社長
Dr. ピモンワン マハッチャリヤウォン
マクロ経済調査主任研究者
ルチパン アッサラット
ハタイワン トュンカティラクン

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