【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

第40回 日系メーカーが懸念する2025年の自動車税制とは

タイでは電動車比率が増加

タイ政府は2020年初めに、30年までにハイブリッドを含むEV(電気自動車)を自動車生産全体の30%に引き上げる「30@30」を発表している。図表は生産台数における電動車比率の推移だが、20年の新型コロナウイルス感染拡大以降も上昇しており、約8%にまで到達したが、まだギャップは大きい。

目下の主力はフルハイブリッド及びエンジンアシストのEV車である。前者はトヨタの「プリウス」のようにモーターとエンジンの両方で駆動し、後者は日産の「KICKS」のようにモーターのみで駆動し、エンジンはモーターの発電役に徹するタイプを指す。

PHEV(プラグインハイブリッド)は欧州メーカーのBMWやBenzがタイの税制優遇策を活用してノックダウン生産をしている。他方で、BEV(図表中Pure)は販売台数の大半を占める中国系メーカーが輸入に依存していることから、まだ100台にも満たない。

タイの電動車の生産構成

2025年予定の税制変更

日系自動車メーカーはタイのBOIが18年に発表した第一弾の電動車投資奨励策に申請した後、続々と電動車の生産を開始している。例えば、ハイブリッド及びバッテリーを国内生産した場合に、税率が4%まで引き下げられる。

トヨタは18年発売の「CH-R」などCクラスのプラットフォーム(TNG-C)のモデルを集中的にタイで生産し、地域に輸出。「CH-R」のほか20年に発売された「カローラ・クロス」は人気が高く、その大半はハイブリッドである。20年のハイブリッド全車種の生産は約15,000台に到達し、21年以降は倍増する見込みである。

日産はタイをe-POWER搭載車の生産拠点としていく方針であり、20年にサブコンパクトクラスのSUV(スポーツ多目的車)「KICKS」の生産を開始し、日本及びアジア太平洋地域へ輸出している。今後はエコカーとして販売されている「NOTE」などを筆頭に、内燃機関車をe-POWERに切り替えていくことが予想される。

ホンダは新型の2モーター方式のハイブリッドシステム「i-MMD」をサブコンパクトセダンの「City」に搭載し、20年11月末から発売を開始した。発売1ヵ月で同時に発表されたハッチバックタイプと合わせて5,000台の注文を受けるなど、滑り出しは好調。ディーラー曰く、Cityの販売台数に占めるハイブリッドの比率は約2割程度に達した。ホンダの販売全体に占める電動車の比率は約3%であるが、タイで得意とするサブコンパクトセグメントを中心に電動化を進めて、徐々に比率を引き上げて行く戦略だ。

ハイブリッドの強みは、BEVのように外の充電インフラを必要とせず、単価の高いバッテリーの容量もBEVに比べると約15分の1に留まる。税優遇策もあり車両価格は100万バーツ前後と相対的に低く抑えられる。タイで量産化することでモーターやインバーターなどの現地化を進め、タイは地域のハイブリッド生産拠点になる可能性がある。

税制変更がもたらす影響

他方でタイ政府は「30@30」の方針の下、BEV重視を強めている。20年11月に発表されたBOIの第二弾の電動車投資奨励策では、BEVやPHEVに対しては引き続き法人税免税措置を与える一方で、ハイブリッド車を奨励対象から外した。

さらに25年までに財務省は自動車への物品税を大きく見直す方針であり、内燃機関車に対する物品税を将来的に引き上げる方針である。同時に、低燃費車に対する優遇政策「エコカー・プログラム」の廃止が検討されている。

新税制により、日系メーカーが強みとしている低燃費ガソリン車やピックアップを中心とするディーゼル車の販売へ影響が出たり、新税制でハイブリッド車に対する優遇策が縮小されれば日系メーカーの電動化戦略が崩れる可能性もある。

世界のEV重視のトレンドにすり寄っていくタイ政府を日系メーカーはどう繋ぎ止められるのか、正念場に立たされていると言えよう。

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