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加速するタイの高齢化 外国企業の参入機会が拡大

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 「タイ企業はどのように高齢者向けの住宅・施設を開発するかを検討・調査するべきだ」――今年2月に日本のサービス付き高齢者住宅「グランメゾン迎賓館 京都嵐山」を視察で訪れた際に、タイのソムキッド副首相は急速に高齢化が進む国内の現状を憂慮した。
 タイはすでに高齢化社会(総人口の7%が65歳以上)に突入している。国連によると、タイは2022年に高齢社会(同14%)入り。高齢化から高齢までの年数も日本の24年を凌ぐ20年という勢い。35年には新興国(中進国)として初めて超高齢社会(同21%)の仲間入りをすると予測されている。ただ、社会保障制度や介護サービスなどが脆弱で、近い将来、大きな社会問題に発展するとの懸念が高まっている。言い換えると、介護サービスなどの高齢者関連事業は高い成長の可能性を秘めていると言える。そこで今回は高齢者を取り巻く環境と関連事業の将来性を探る。(取材協力:カシコン銀行)

日本を上回る速度で超高齢化

 政府系シンクタンクの国家経済社会開発委員会(NESDB)によると、タイ人の平均寿命は男性が71・4歳、女性が70歳であるが、40年にはそれぞれ75歳、82歳まで伸びる。一方、合計特殊出生率は、10年の1・6人から40年には1・3人に落ち込む。少子高齢化に拍車がかかり、若年層の構成比は低下すると予測される。

 労働者(15~64歳)が、働き手でない高齢者(65歳以上)を何人支えているかを示す「従属人口指数」を見ると、40年までに高齢者1人に対し、労働者2人となる見通しで、20年予測の4・5人から大幅に減少する。日本(1・7人から1・3人)、韓国(3・8人から1・5人)、シンガポール(3・9人から1・7人)に次ぐ低水準となる(世界銀行)。

 カシコン銀行によると、タイは高齢社会の入り口に立っており、高齢者の大半は現在、60~69歳の初老者である。60歳以上になると、総人口6550万人の17%(1120万人)を占め、36年には30%(1950万人)に達すると警笛を鳴らす(2017年)。

 現在、アジア地域でタイよりも高齢化が進んでいる国・地域は日本、香港、シンガポールなど少数。高齢化の状況をみると、中国と同程度のスピードで進んでいることがわかる(図表1)。

2040年には老年中期(70~79歳)および老年後期(80歳以上)を合わせた人口が初老者(60~69歳)の人口を追い抜くことが予想される。特に、老年後期の人口は急速に拡大しており、40年までに扶養高齢者向け製品・サービスのニーズが高まる見通しだ(図表2)。

 初老者は60歳以降も働き続ける場合が多い。デジタル経済社会省国家統計局によると、子どもや近親者からの仕送りに頼るのは34%のみで、稼働所得(雇用者所得、事業所得、農耕・畜産所得、家内労働所得の総称)がある初老者は5割に達する。

 ただ、稼働所得は老年中期に19%に落ち込む。老年中期および老年後期には仕送りを受ける割合が過半数を上回り、それぞれ51%、60%に跳ね上がる。

(注)調査機関によって高齢者の定義が異る。例:タイ機関は総人口に占める60歳以上の割合が10~20%を高齢化社会などと定義

乏しい老後の貯え

 タイ中央銀行によると、引退後に備えて貯蓄を計画もしくは開始していないタイ人は41%、百万バーツ以上の資産を保有している60歳以上の高齢者はわずか15%(国家統計局)と、安心して老後の生活を送るための準備をしていないという実情が浮かび上がった(図表3)。

 60歳時点で借金を抱えている割合も29%と高い。働き盛りにもかかわらず、教育水準と技術が低いため、45歳程度で第一線から退き、正規の就業体系外の経済部門・職種(行商などのインフォーマルセクター)への従事を余儀なくされる国民は43%に上る。約7割の高齢者が定期的な医療サービスを求めているが、政府の動きは鈍く、高齢者に優しい建物や施設は約3割程度に限られている。

 介護保険制度の整備も遅れている。タイには公的な介護保険制度はなく、一般的に家族やコミュニティが要介護老人を自宅内で介護する。家族の一員を介護施設に預けることは「親不孝」という価値観が残っており、介護提供者は配偶者と息子・娘が8割以上を占める(タイ国家統計局)。特に地方では孫や親戚を含む家族だけでなく、身近な近隣住民が面倒を見てくれる傾向が強い(図表4)。保健省が財政支援する村健康増進病院が派遣する健康ボランティアが、要介護高齢者の自宅を訪問するコミュニティ型の介護もある(チュラロンコン大学ウォラウェット・スワンラダ教授)。だが、都市部に住み経済的余裕はあるが、多忙な共働き夫婦の意識は変化しつつある。社会環境が変わるなか、従来型の介護体制は行き詰まるとの見方も出ている。

 日本のように社会問題化することを懸念するタイ政府は、16年から具体的な高齢者対策として、△雇用支援。高齢者を採用する企業に対する税制優遇措置を拡充(小売業者を中心に官民23機関が協力)△債務のない不動産所有者が対象で、自宅を担保にした老後の生活資金を融資するリバースモーゲージの導入△任意加入の退職金積立基金(企業年金)への強制加入△全国各地で公営の複合施設整備△百万人と言われる裕福な高齢者にも支給されている月額6百~1千バーツの老齢福祉手当(公的年金制度の一部)受給権の放棄呼び掛け――などを実施・検討をしている。

高齢者向けビジネスの好機が到来

 タイ人高齢者に多い疾患は、△脳卒中△糖尿病△心臓疾患△慢性閉塞性肺疾患△認知症――。要介護高齢者は95万人で、うち寝たきりの高齢者は14万3千人に上る。

 カシコン銀行ワールドビジネスグループのウィライラット・チャイヴィパス部長補佐は、「都市化の進展に伴う生活様式の変化により、タイでも核家族化が進んでいる。このため、一人暮らしをする高齢者が増えており、ここに高齢者介護事業の参入機会がある」と指摘する。

 総人口に占める独居高齢者(60歳以上)の割合は14年時点で8・6%と20年間で2倍以上となった(図表5)。

 従って、扶養・自立高齢者向けの住宅・介護施設や車椅子といった関連商品の需要が近い将来、高まると考えられる。ただ、バリアフリー製品やオムツなどの衛生用品の購入や介護サービスの享受にあたっては、高齢者本人のみならず子どもや近親者の意見が反映されることになりそうだ。

 カシコン銀行によると、民間で介護施設を営んでいるのは中小規模の事業者が中心。業界をリードするような企業は不在で、大規模な企業は少数だ。

小規模事業者はほとんどが中所得者層を対象としており、中規模・大規模事業者は高中所得者層および高所得者層を対象としている。すべての層が恩恵を受ける期待が持たれているが、大規模事業者は高所得者層の取り込みを図っている。

 タイ商務省ビジネス開発局に登録されている民間の高齢者向け介護施設は約8百ヵ所といわれる。カシコンリサーチセンターによると、中小規模事業者(約760社)の大半が医療機関が単独で所有する施設。病床数は最大で30床で、タイ人が中心。年間売上高は4百万~16百万バーツ。介護施設の平均月額費用は1万5千~3万バーツで、デイケアサービスは1日当たり7百~12百バーツだ(図表6)。

 大規模事業者(約40社)は病院の傘下にある場合が多く、病床数は30床以上で、支店を多数抱える。主要な要介護者は裕福なタイ人と外国人高齢者で、年間売上高は3千万バーツを超える。バンコク郊外にはリゾート型介護施設「MyHome」などがある。

 同局のウティクライ事務局長によると、3分の2は個人事業者、残りは法人によって運営されている。ただ、いくつかの施設は低水準のサービスを提供しており、不適切な介護と死亡した際の不手際に対する苦情があると人材育成の必要性を強調する。一方、ソンティラット商務相(当時)は、「タイは質の高い人材が豊富なので、介護サービスのハブと医療関連製品の生産拠点となる潜在力がある」と自信を示す。

高齢者市場の潜在性

 カシコンリサーチセンターによると、最近、大規模私立病院が高所得者を対象とした介護施設事業への進出を開始しており、今後この分野に進出する事業者の数が増大すると思われる。

●バンコク病院は北部チェンマイ県および東北部ナコンラチャシマ県(カオヤイ)にタイ人および外国人高齢者向けの病院を建設中。病院内に高齢者ケアセンターを開設。

●バムルンラッド国際病院は、介護施設事業の拡大を検討中で実行可能性調査を実施。

●トンブリ病院グループはバンコク・近郊地域で退職者専用住宅および介護施設を拡大。

●クルアイナムタイ病院は、認知症ケアセンターや緩和ケアセンターなど、症例別高齢者対象メディカルセンターを立ち上げてサービス、技術の向上を図っている(図表7)。

 病院が経営する介護施設の特徴として、カシコン銀行は△病院内もしくは併設して介護施設を運営△退職者専用住宅に高齢者向けの介護施設および病院を併設△タイ国内の高齢者介護施設を拡大するために外国の病院/介護施設と提携――と挙げる。

 だが、開発中の施設のほとんどが高所得者および外国人を対象としており、近い将来熾烈な競争に直面することが予想される。一方で中所得者層を対象とする場合、それほど激しい競争の可能性はないが、事業の利益率はさほど魅力的ではない(図表8)。

 外国企業はコストとリスクの分担および病院近くの立地での事業を実現するため、国内企業との提携が推奨される。カシコン銀行はマーケットの需要を理解し、優れたマーケティング戦略を有しており、設備投資に積極的なタイ企業が望ましいと外国企業に提言する。提携する利点として、外国企業はコストおよびリスクの分担やマーケットに対する見識を得る一方、タイ企業は高齢者ケアサービスのノウハウ取得――などを挙げる。

 また、外国企業は国内企業(不動産開発業者、ヘルスケアビジネス業者など)とジョイントベンチャーの立ち上げが可能。病院近くに立地することで緊急時に適時に対応することが可能となる。

タイ企業との提携模索

 介護施設およびデイケア事業を行うために、外国企業は国内企業と提携し出資比率の上限を49%とするジョイントベンチャーを立ち上げることが可能。または、タイ投資委員会(BOI)の投資奨励を取得することで百%外資の事業を展開することも可能となる(図表9)。

 定年後にタイでロングステイする外国人が急増していることから、タイにおける介護ビジネスでは、タイ人高齢者だけでなく外国人高齢者も顧客対象となる。タイでロングステイする外国人高齢者は、中所得者層および高所得者層が中心で、南部プーケット、中部ホアヒン、東部パタヤなど海のリゾート地や北部チェンマイなどでくつろいだ生活を送っている(図表10)。

 スイス系の「Vivobene Village」は南部プーケットの高齢者施設で要介護者向けの集中治療サービスを提供。月額は11万45百バーツ~16万1千バーツと高額だ。バンコク郊外でも高齢者向け施設の開発が始まっている。総合的なケアを提供する「Aspe Tree」では認知症患者のデイケアなどのサービスを提供する考えだ。

 また、在宅・訪問サービスを希望する高齢者に看護師を派遣する「RentANurse(Thailand)」は、バンコク、ホアヒン、パタヤなどに介護サービスを拡大している。

 米不動産サービス大手CBREによると、タイには世界の高齢者を取り込む潜在力がある。シンガポールやインドネシアなどでも、住宅・介護施設の建設が進められているが、タイの優位性として整備された社会インフラ、安い生活費、温暖な気候などを挙げる。今後は、高齢者向けの住宅や介護施設の開発で国内の不動産関連企業と外国企業の連携が深まると予測する。

私立病院トンブリ・ヘルスケア 国内初の高齢者向け複合施設開発

ティーラトン・タラチャイ最高経営責任者(CEO)

少子化・未婚化などを背景に、高齢者を取り巻く社会環境は大きく変化。子供が親の面倒を見るという従来の体制持続が困難となり、専門の施設に介護などを任せる動きが加速しようとしている。バンコク北郊で国内最大規模の高齢者向け複合施設「ジン・ウェルビーイング・カウンティ」を開発・運営するプレミア・ホーム・ヘルス・ケアのティーラトン・タラチャイ最高経営責任者(CEO)に今後の介護サービスなどについて話を伺った。

 同社は私立病院(4月現在、国内6ヵ所、うちバンコクに3ヵ所)を運営するトンブリ・ヘルスケア・グループ(THG)傘下。ウィパワディ・ランシット通りから西方に広がる140ライ(1ライ=16百平方メートル)の広大な土地を開発中で、まず年初に住宅用ビル5棟(総戸数4964戸)を完工。年内には最先端の設備を備えた「トンブリ・ブラーナ病院」と世界水準の健康・福祉施設「ジン・ウェルネス・インスティテュート」を併設・オープンする予定だ。ドンムアン国際空港や商業施設、ゴルフコースなどが至近にあり、生活の利便性が高い。

 高齢者は病院や介護施設に入居すると、気持ちが落ち込む傾向にあるが、ティーラトン氏は、「引退した高齢者に健康で充実した老後の生活・人生を送ってもらうための施設です。介護が必要な高齢者の方々も安心して入居できます」と説明する。家族が週末を高齢者と過ごすことも可能で、「いわゆる介護施設に両親を預けることに抵抗感のある息子さん、娘さんも安心できます」と、仕事を持つ家族は施設に頼ることになると予測する。

 ティーラトン氏によると、THGの強みは総合医療サービスで40年以上の経験があること。「高齢者市場はまだ立ち上がったばかりで、不動産開発業者と他の病院グループが、成長が見込める高齢者向け事業に参入を試みています。弊社は不動産開発と医療サービスなど病院経営で一日の長がある」と自信を示す。年齢や健康状態によるが、大きく分けると、①在宅医療介護②医療用品・機器の卸し③介護・福祉施設─の3つの事業を展開する。

時代を先取りしたコンセプト

 ジン・ウェルビーイング・カウンティは新たなコンセプトの複合施設として③のサービスを展開する考えだ。ティーラトン氏は、「自然に囲まれ、高齢者が過ごしやすい/使いやすいユニバーサルデザイン(仕様・形状・構造設計)が施されており、安全・安心した環境で生活が送れます。医療体制も万全なほか、入居者同士が支え合い、価値を共有する質の高い社会環境を実現します」と述べる。入居者はタイ人だけでなく、外国人も歓迎する。英語を話せるスタッフが常駐するほか、「需要があれば、日本語などの他の外国語に堪能なスタッフを雇いたい」。課題はスタッフ不足だが、同グループ経営の複数の病院からプロが駆け付ける。

 一般にタイ人はまだ、高齢化社会がどのようなマイナスの影響を及ぼすかを実感していない。「両親が年を取った時の対応がわからない」という人々への、時代を先取りしたサービス提供を目指している。

 投資目的としても魅力だ。開業間近の高架鉄道「ダークレッド線」など、周辺では大型プロジェクトが目白押しで、資産価値の増大が見込める。将来は高齢者を海外に渡航させるツアーなどの企画を検討する。一足先に超高齢社会に突入した日本からは特にソフト面での技術などを吸収することを期待している。

課題は人材不足など

 急速な高齢化により看護師・介護士の需要が急拡大している。このことが専門介護サービスの事業好機を示唆していると言える。タイ国家統計局によると、専門的な訓練を受けた看護師と准看護師の需要は、2007~14年に16%増加。介護士も同18%増と、専門的ケアサービスの需要が急拡大している(図表11)。

 ただ、看護師の給与額は准看護師の約2倍となるため、看護師に介護の仕事を依頼すると割高となるという。ジェトロ(2018)によると、高齢者介護の現場で働く介護士はナースエイドと呼ばれる。看護師や准看護師とは異なり、国家資格では無く、専門学校の修了証書を持っているものと一般に認定されている。 

 一方、専門的ケアサービスの需要増加に反比例して、介護分野での使用人の需要は減少しており、同13%減となった。ただ、看護師の数は1千人当たり2・1人と日本(11・5人)の5分の1、韓国(5人)、シンガポール(5・6人)も半分以下と不足している(世界銀行世界開発指標 2015)。

 タイ保健省は地方における要介護高齢者の10%にあたる10万人の介護を目標に、地域レベルでの介護人材の養成に乗り出している。ジェトロによると、同省は介護にあたる人材として、ケアマネージャーとケアギバー(介護従事者)の育成プログラムを策定している。

日本型介護サービスを導入

 「介護先進国」である日本は、その経験と知見を生かして、タイに貢献している。

 日本政府は今年3月に中部ナコンサワン県ワンナムラッド区の高齢者デイケアセンター建設計画に総額303・5万バーツの無償資金援助を行うと発表した。同区住民の16・8%にあたる1269人が60歳以上の高齢者で、今後も増加するとみられる。また、ボランティア型ケアワーカーの育成に必要な資機材を整備し、バーンカオディン健康増進病院で研修を実施する。

 JICA(国際協力機構)も地域の高齢者サービスの体制作りを10年以上に渡り、支援している。2013~17年まで実施した「要擁護高齢者等のための介護サービス開発プロジェクト」では、介護人材養成プログラムの開発に取り組んだ。それまで地域の介護を担ってきた病院の看護師を「ケアマネージャー」として訓練したほか、デイケアセンターや訪問介護も立ち上げた。

 すでにタイで事業を展開する日系企業は少なくない(図表13)。従って、「高齢社会の先輩」である日本の企業が参入できる好機とも言える。介護だけでなく、医療、健康食品、用品、人材養成、バリアフリーなどで、タイの風土・社会に合った製品・サービスを提供できるかが成功のカギを握ると思われる。

タイ市場の潜在性に期待車椅子の松永製作所

マツナガ(タイランド) 早矢仕真史マネージングダイレクター

医療・福祉の総合メーカーを目指し、車椅子を中心にさまざまな製品を展開する松永製作所(本社:岐阜県養老郡)は、2014年にタイに販売会社マツナガ(タイランド)を設立。飽和状態の日本市場からタイ及びアジア市場への進出を目指し、営業活動を行っている。同社の早矢仕真史マネージングダイレクターに高齢者市場の見通しや課題などを聞いた。

 日本の車椅子は、社会保障制度の一部として、単なる移動機器としてではなく、健康寿命を伸ばすための機器として位置づけられている。「車椅子上での座位姿勢を保持することを重視する機能が備わっています。加えて車椅子のイメージを変えるデザインにも着目して、開発をしています」と早矢仕氏。松永製作所は、美しさや機能はもちろん、社会に対する貢献度までトータルに審査される日本の「グッドデザイン賞」を2013年以降、5度受賞。日本のメーカーとして必須である安全性と使いやすさを追求した高品質製品を提供できることが基本的な強みだ。早矢仕氏は「さらにタイの市場に合わせたサイズのバリエーションを用意していることと、富裕層向けに、高級感のある商品だけでなく、質の高いアフターサービスを提供していくことで差別化を図っています」と自信を示す。

 伊勢丹バンコク店に店舗を構えており、「富裕層をターゲットとするため百貨店内での販売とFacebook広告・投稿宣伝を行っています。また日本では車椅子のメーカーですが、タイでは車椅子以外の福祉用具全般を扱える受け皿になることで顧客層の拡大を図っています」と説明する。富裕層が足を運ぶ展示会にも出品して認知度の向上を図っている。

 販売面ではターゲット層を富裕層だけに絞ると、規模の拡大が困難なため中間層獲得に向けた戦略を練っている。「日本と異なり、物流コストを含めた中間コストが高いため、販売価格も高くなってしまいます。医療機器の輸入・広告などのFDA(食品・医薬品局)登録がその都度大きなハードルになっています」と課題は少なくない。

適地適品の開発・生産

 タイでは急速に高齢化が進んでいることから、高齢者対策・ビジネスがタイ独自のスタイルで確立されていくと思われる。早矢仕氏は「予算の観点からも日本の介護保険と同規模の公的な社会保障制度の確立は難しいこともあり、独自のプラットフォームが構築されていくでしょう」と予測する。

 製品の基本的な設計は同じでも、利用者にとっての「使いやすさ」や「心地よさ」は国や地域の事情によって少しずつ異なる。同社は今後、「必要とする場所に必要とする製品を」という考えのもと、適地適品の開発・生産に注力していく方針。独自に確立されていくであろうタイの高齢者ビジネスモデルを将来、周辺国でも展開していく方向性を示す。

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