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インテリジェンス・リレー連載 タイにおける定款

インテリジェンス・リレー連載

はじめに

会社の定款は、会社としての規則を定めたものであり、本来であれば重要なものとしてよく理解されるべきである。しかし、タイにおいては会社設立の際、商務省が示す定款のひな形をそのまま使用して登記することもあることから、あまりその重要性や存在が意識されることがない。株主総会や株式の規定はどの会社でも手続きを行う機会があり、その内容を一度は把握しておくべきである。本号では、タイの日系企業の進出形態として最も多いと思われる、非公開株式会社の定款について解説する。

定款について

 そもそも定款とは、会社の組織や活動について定めた規則をいう。日本では「定款」といえば一つの書類しかないが、タイでは「定款」といった場合に日本語訳での名称上「基本定款(Memorandum of Association)」と「付属定款(Article of Association)」の二つの書類が該当する。いわゆる「定款」としての内容を含むのは「付属定款」であり、「基本定款」は会社名や会社住所などの会社基本情報が記載された書面となる。このため、以下の解説における「定款」は「付属定款」として言及する。

定款の効力

 タイでは定款を必ず定める必要はない。定款を定める代わりに「民商法典の定めに従う」とすることも可能であり、定款を制定していない会社も稀ではあるが存在する。定款の有無の確認は商務省事業開発局 (DBD)において行うことができる。

 定款が制定されている場合、その内容は原則として民商法典(以下「法」という)の規定に優先して効力を有する。ただ株主総会の決議要件等については、法の要件を加重することはできても、軽減することはできないものと考えられる。さらに、定款は登記され対外的にも確認できる規定であることから、その他の社内規定や合意(株主間契約等)より優先して効力を有する。

定款の内容

 タイでは、商務省が定款のひな形を提供しており、日系企業でも多くの会社がこのひな形を使用して定款を制定している。その内容は左記の通りとなるが、各規定は法の定めとほぼ同内容を定めるものである。

第1章 総則
第2章 株式と株主
第3章 取締役
第4章 株主総会
第5章 決算書
第6章 配当と積立金
第7章 清算人

 この中で、会社手続きにおいてよく関連すると考えられるものは、第2章における「株式譲渡」に関連する条項と第4章における「株主総会における議決権」の条項である。「株式譲渡」についてはひな形をそのまま使用している場合、譲渡制限がなく自由に譲渡が可能な状態となっている。

 また、「株主総会における議決権」について、タイでは議決権の行使方法としては挙手制が原則とされるため、このままであれば保有する株式数に関わらず、株主1人当たり1議決権となり、1株1議決権が原則とされる日本と大きく異なる。場合によっては本来想定した決議ができなくなる重要な点であることから、しっかり把握しておくべきである。

 もっとも、定款において挙手制とされている場合でも、各総会において少なくとも2人の株主から投票制が要求された場合には、1株につき1議決権での投票制となる。

 これら定款の内容を変更する場合には、株主総会の特別決議が必要となる。


TNY国際法律事務所
日本国弁護士  藤原 杯花
2017年1月よりタイ、TNY国際法律事務所にて執務。TNY国際法律事務所は、日本人弁護士2名が共同代表を務める法律事務所であり、会社設立から規制調査、契約書のリーガルチェック、商標登録申請などのサービスを提供している。

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Contact: info@tny-legal.com


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