ArayZオリジナル特集

環インド洋経済圏のビジネス・ハブ拠点として注目 スリランカ投資環境レポート

 人材レベルは高く賃金も安価南西アジアでは貴重な仏教国

取引先の細かな要望に応えたものづくりには、ある程度のワーカーレベルが求められます。スリランカのワーカー人材は識字率90%以上、地方人材でも英語の読み書きが可能です。日系企業の雇用アンケートに基づくデータによれば、工場ワーカーの賃金はインドやベトナムよりも低く、月額160米ドルほど。なぜ一人当たりのGDPがインドの倍あるのに賃金が安いのか。
明確な答えは出ていませんが、私の個人的な推察では2点、まず教育を受けている人口の
裾野が広く、中卒、高卒でも英語が話せる人材が多いこと。そして1983〜2009年の内戦の間、目立った労働争議がなかったことが影響しているのではないかと思います。
スリランカは国公立の大学まで学費が無料で、インドのようなあからさまなカースト制度もなく、人口の絶対数ではインドに敵いませんが、日系企業が雇用できる教育レベルの人材の層が広いと言えます。今後、遅かれ早かれ賃金の上昇圧力は出てくるものと思われますが、他国を大きく逆転するほどではありません。
南西アジアでは珍しい仏教国で、男女同等に社会進出が進んでいますし、ムスリムも一定規模いますが、タブーにコストがかかるほどではありません。島国の小国で、気質は穏やか。歴史的に灌漑農業で発展してきた農耕民族の国なので、ムラ社会、コミュニティで共存・共栄していく精神は一昔前の日本に似たところがあり、日本人にとっては一緒に働きやすい国民性です。

国内市場は中堅・中小企業にとって魅力的なグリーンフィールド

約2000万人という人口は内需を狙うには少ないと思われがちですが、世界物流のハブとなっているシンガポールで約500万人、日本にとって有望市場の台湾で約2300万と、一様に少ないとは言い切れません。スリランカ一本では難しいかもしれませんが、ここで得た経験とネットワークをもとにインドや中東、ケニアやタンザニアなど東アフリカへ進出するための国内市場は中堅・中小企業にとって魅力的なグリーンフィールド実験市場として考えれば、むしろ最適な経済発展度合と人口数とも捉えることができます。GDPが上がり、付加価値のある良質な物を求める消費者が増えてきました。その割に外資系ブランドの進出スピードはまだ緩く、入り込める土壌があります。
スリランカ政府は2016年末までに、観光客数を250万人まで増やすことを目標に掲げています(昨年実績は約150万人)。人口2000万の国に200万の富裕層が来るという経済効果は大きく、前出のNORITAKE社の国内販売売上は約7割が外国人観光客によるものだそうです。
アセアンは新車の販売が盛んですが、スリランカは組立工場がないこともあり、元気があるのは中古車ビジネスです。右ハンドルの日本車は3年未満のものがスリランカへ、それ以上のものはアフリカで言えばケニアやタンザニアと、旧英連邦国へ多く輸出されています。最近では輸出前に必要な整備をコストの高い日本ではなく、スリランカの整備工場や倉庫で行い、オフショアでアフリカ方面に輸出するビジネスも始まっています。

企業はコロンボ周辺に集中進む建築・インフラ開発

2009年の終戦後、外国投資が一気に伸びました。スリランカ投資庁(BOI)によれば直接投資額が最も多いのは中国で、日本は昨年の順位で13位に留まっています。ただ、中国による投資内容の中身はコロンボ港のコンテナターミナルの拡張、携帯電話の基地局建設などのインフラ開発がメインです。中国ではODAに付随し国営企業が工事に入
るため、中国から純民間企業が多く来ているというわけではありません。観光客向けの高級ホテル開発や、オフィスビル新造の建設分野でも投資が伸びています。
交通面では11年コロンボと南部都市ゴールを結ぶ南部高速道路が、13年には、バンダラナイケ国際空港とコロンボ市を結ぶコロンボ〜カトナヤケ高速道路が開通しました。河川をまたぐような難易度の高いルートは日本企業が、簡単なルートは国際入札で中国が受注するなど、日本と中国が競い合うように開発を請け負っています。
日系企業のほとんどが材料・部品を輸入して輸出を行うする加工貿易を行っており、また生活環境面の理由からも、コロンボから通勤圏内の工業団地に入居しています。空港近くのカトナヤケEPZに少しだけ空きがありますが、ビヤガマやホラナ、シータワカのEPZはほぼ埋まってしまっています。BOIは内陸や南部にもEPZはあると言うのですが、材料をコロンボ港から工場まで運び、また出荷のためコロンボ港に持っていくための、陸の物流網が点在するEPZと繋がっておらず不便です。
電力については発電量が供給量をわずかに上回っており、停電はコロンボであれば3ヵ月に1回程度、地方の工業団地でもジェネレーターがあれば3シフトにも対応できていると聞いています。発電の4割を水力、4割を石油・火力発電、残りを石炭や再生エネルギーで補っており、スリランカの基幹エネルギー政策では石炭燃料による火力発電所の増設を推しています。2013年、中国が900メガワットのノロチョライ石炭火力発電所を開発し、日本も昨年、安倍晋三首相が公式訪問した際、発電効率が高く二酸化炭素排出量も少ない、高効率の石炭火力発電所建設に向けた日本の技術活用について言及しました。インドも石炭火力発電所開発には名乗りをあげており、順調に開発されれば拡大する需要を満たし、高い発電コストを抑えられるのではと期待されています。

政権交代でビジネス環境整備に期待先行者メリットもまだ十分にある

スリランカは法律や制度の改正が激しいため、現在ある魅力が半年後も残っているかを見極めるためには、実務面などBOIが更新する情報をマメにチェックしておくことが重要です。BOIには2つ役割があり、工場建設など大規模な投資をする企業に対し、法人税免税や輸出入に関わる関税の優遇といったインセンティブを与える機能。そしてビザ取得に必要な推薦状を出す機能を持っており、実際には後者の目的のためだけにBOI登録している外国企業も少なくありません。BOI窓口はワンストップ機能の確立途上にあり、ジャパン・デスクも日本語のできるスタッフがいないなどタイに比べるとまだまだですが、2014年からJICAが派遣している日本人専門家の指導もあり、サービスの質は向上しています。まだ日系のコンサルティング会社もありませんので、初期段階ではJETROに、実務段階では直接BOIやローカルの法律事務所で情報を収集する作業が必要になります。
今年1月に政権が交代し、シリセーナ新大統領が誕生しました。新政権では外資に開かれたビジネス環境の整備と、過度の中国依存を見直した外交を明言しており、内政面でもイスラムやタミルなどの少数政党の支持を得ています。
ラージャパクサ前大統領とは異なる、経済合理性に基づいた、長期的な経済政策、外交政
策に期待がかかります。
スリランカはまさに「これから」の時期にあり、これまで検討されていなかった企業にとっても出遅れ感はありません。インドの巨大マーケットやシンガポールの完璧な物流
システムのように、飛び抜けた何かはないのですが、満遍なくバランスが良いところが
魅力です。まだ第1進出グループに入れる穴場国現地の様子を、ぜひ一度見に来てみて
はいかがでしょうか。

JETROコロンボ事務所
4th Floor, 65C, Dharmapala
Mawatha, Colombo 7,
SRI LANKA
+94-11-2323354,2439255

大注目!! 日系企業で今、伸びている3つのビジネスモデル

①スリランカの資源を利用した対日ビジネス
農産品をはじめとするスリランカの地場資材を加工/完成した商品は日本の市場へ投入/コロンボから日本までの安価な物流コストがメリット。

②“Look NEW Market”
スリランカ1ヵ所からインド(North)、東アジア・ASEAN(East)、欧州・中東(West)などNEW Marketを狙う/欧州とアジアのど真ん中という地理的ロケーションをフル活用/将来的にはアフリカ大陸を視野に。

③中間層・富裕層が牽引する消費市場の攻略
一人当たりGDPが3,500米ドルを超え、中間層・観光客を中心に消費が拡大/親日的な国民性に加え「日本製=高品質」の意識が高く、日本が得意とする技術や品質にこだわりがある商品が選ばれ始めている/年々増加する観光客も重要なターゲット。世界遺産が8つあり、終戦以降、非常に治安が良いためしばらくは安定した伸びが見込める。

arayz nov 2015左:コロンボの中央バスターミナル。市場も近く活気がある。
右:NORITAKE社が昨年コロンボにオープンした食器のショールーム。進出して約40年で内販を始めた。

arayz nov 2015
左:空港~コロンボ市内を繋ぐ高速道路。2011年に初めて開通した「南部高速道路」は日本企業が開発
右:海岸に面したゴール・ロード沿いではシェラトンの建設が真っ只中

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