ArayZオリジナル特集

変わるモノづくり 製造業とIoT

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日本企業におけるIoTの可能性

従来は入手できなかった業務プロセス全体のデジタルデータが、センサーとネットワークによって収集・分析できるようになると、人手に頼らざるを得なかった部分にも情報通信技術が及んでいく。経験と勘、いわゆる「暗黙知」に頼っていた現場の英知(ノウハウ、匠の技、品質管理、部品管理、設備の保守・管理など)が 、ICT、ネットワーク化で吸い上げたデータ解析によってカバーできるようになるのだ。これは製造業だけでなく、医療、流通・小売り、農業などすべての産業でも同様だという。もっとも、暗黙知のままではICTを導入することはできないため形式知化が必要となるが、これは日本企業が苦手とする分野でもある(図表5)。

arayz sep 2016

「日本の製造業は、技術を外に出すこと(アウトソーシング)を避けたがる傾向があります。特に大手企業では、産業事業のレイヤーごとに組み合わせる独自のシステム構築が主流です(図表2)。レイヤーでいうと、センサーやその制御装置となるPLCでは日本企業も競争力があるのですが、その上位となる SCADA(産業制御システム)/DCS(分散制御システム)、PLM(製品ライフサイクル管理)/MES(製造実行システム )、ERPは弱く、シーメンス社のように、センサーからERPまでトータルで提供できる企業は限られます。また、IoTで情報集めて分析・解析を行うには、製造メーカーの業務内容を把握する必要があるため、日本のシステムメーカーが上位レイヤーを開発するといった動きは当分無いように思われます。

日本は自動車産業からIoTが進んでいくと思います。日本にマザーとなるラインを置き、その設備などそのままコピーしたラインを国外に置いて、同じ作業・手順、同じ稼働率、同じメンテナンスで行っていった場合の比較、ギャップ分析を行っているという動きもありますが、まだコンセプト、プランニング、テストなどを行っている段階です。
前出のハーレー・ダビッドソン社の事例で技術のアウトソーシングが可能だったのは、大型バイクという嗜好性の高い商品であったためと考えられます。例えばこれが汎用性の高い液晶パネルであったとすれば、アウトソーシングした技術の業務モジュールを使って、そのまま同じ製品が作れてしまいます。日本の電気・電子産業分野には、各メーカーに培ってきた技術や匠の技があることが、『IoT』といってもすぐに技術をアウトソーシングして業務モジュール化できないひとつの理由になっています。これは日系の自動車メーカーも同じです。ただ、ボッシュ社が、自社で開発したプロトコルをオープンにして水平展開を始めています。オープンということは浸透も早いものと思われ、この動向には注目しておく必要があります。

日本企業の可能性としては、海外展開が遅れている鉄鋼業の保全に関わる業務(保全ノウハウは人の頭と手に頼る部分が多く、垂直展開が主流となっている)で暗黙知となっている部分を、IoT化すると同時に海外進出を実行できれば、十分に競争力が保持できるのではないでしょうか」。

タイ製造業のIoTはいつ?

「タイの製造業界では、まだIoTは進んでいません。日本をはじめ、世界的な製造メーカーにとって、タイはまだ一製造拠点にすぎないのが実情です。タイがIoTを推進し、世界における主導権を取得するには、タイ・オリジナルのいわば『ASEAN型インダストリー4.0』的標準を作り、周辺国に浸透させていくことだと思います。タイはASEANの中ではもっとも製造業が集約しており、製造業のプラットフォームとなっていることから、タイが統括を担い、調達、生産、品質保証とその前後を集約した、新しいIoTの型は作ることができると考えています(図表6)。

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IoT化を進めていくには、工場というテストベッドのほか、人と開発資金も必要ですので、やはりメインプレイヤーとなるのは自動車メーカーだと言えるでしょう。自動車は先進国向けと新興国向けに、分けて開発を行っていくことで道筋は見えてきますが、ドイツのインダストリー4.0の戦略が2020年を目処にしていること、また、日本も始まったばかりで時間が相当かかることから、タイでもすぐにというのは難しい状況ではないかと思われます。具現化していくためには、まずASEAN型インダストリー4.0のコンセプトメイク、青写真を描くところからだと思います」(図表7)。

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参考:『「インダストリー4.0」と「IoT」を理解するための基礎業務プロセスのIoT化・モジュール化』NRI知的資産創造/2016年3月号 『インダストリー4.0とわが国製造業への示唆』 NRI知的資産創造/2016年4月号 GEジャパン株式会社ウェブサイト(www.ge.com/jp/)

 

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岡崎 啓一
野村総合研究所タイ社長。
1997年4月、株式会社野村総合研究所入社。事業戦略、自動車・ハイテク産業、電機・精密・素材産業などのコンサルティング部を経て、現在、グローバル製造業コンサルティング部の上席コンサルタント。専門テーマは事業戦略構築、ビジネスモデル構築、新規事業開発、M&A/提携戦略策定。

野村総合研究所タイ
399, Interchange 21 Bldg., Unit 2304,23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua, Wattana, Bangkok 10110
☎02-611-2951
HP www.nri.com

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